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2015年、僕の心をとらえたアルバム

余分な曲が1曲もないデュエット・アルバム

今回は、2015年に発表されたアルバムの中で僕の心をとらえた作品を3作、ご紹介します。まずは、僕が大ファンでもあるヴァン・モリスン。今回のアルバム『デュエッツ』は、サブタイトルが「Re-Working The Catalogue(リワーキング・ザ・カタログ)」という印象的なもので、持ち歌を再び活用するという意味。ヴァン・モリスンは、最初のバンド「ゼム」の活動時期を含めるとデビューしてもう50年で、作った楽曲も非常に多いけれど、自分がいいと思っていながら一般的にはあまり認められていない作品もたくさんあるんですね。そういう楽曲は誰もろくに宣伝してくれないから、だったら自分がやるしかないと思って、「リワーキング」としたわけです。

こういうデュエット・アルバムは企画くささが残りがちで、僕はあまりいいと思ったことはないんです。1枚の中で好きな曲は大体2、3曲くらいで。だから、このアルバムも聴く前にはちょっとどうかな、と懸念しましたが、ゲストの顔ぶれを見ると、かなり自分好みの人が多く、聴いてみたら良くない曲が1曲もない。驚くほど充実したアルバムでした。亡くなってしまったボビー・ウォマックや、メイヴィス・ステイプルズといったソウル系の人、ソウルというよりブルーズ系のタージ・マハール、ジョス・ストーンのようなやや意外性のある若い歌手など、ゲストもヴァン・モリスン本人が決めたみたいで、ほとんどの人はスタジオで一緒に歌ったと語っていますね。

特に後半のスティーヴ・ウインウッド、クリス・ファーロウ、マーク・ノップラーと続くところが僕好みで、歌手も曲もいい。とにかく文句なく年間ベスト・テンに入るぐらいのアルバムでした。

まさに時代の最先端だった時期のボブ・ディラン

ボブ・ディランの未発表スタジオ録音を収録する『ブートレッグ・シリーズ』もいよいよVOL.12ということで、1965年から66年にかけてのセッションを収めたCD6枚組のデラックス・エディションと、セッションからのハイライト楽曲をまとめたCD2枚組ベストが昨年末リリースされました。『ザ・カッティング・エッジ』というのは最先端という意味なんです。確かにこの時期の最先端はボブ・ディランだったと思います。

1965年頃というのは、まだロックという言い方が一般的になっていたわけではなく、ちょうどなりつつあるという時期なんです。この時代にディランが作ったアルバムというと『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』、『ハイウェイ61リーヴィジテッド』、それから『ブロンド・オン・ブロンド』の3作品で、未だに彼のキャリアの中で最高傑作とされるのは、おそらくこの3作品だと思います。

僕はこの3枚は、全部レコードが出た当時に買いました。中学生でお金がなかった時代ですから、ほとんどシングル盤しか買えなかった時期ですが、早くからボブ・ディランはアルバムで聴く人というイメージがあったし、ほとんどお小遣いがない中で確実に買いたい人でもありました。で、この『ブートレッグ・シリーズ VOL.12』は、この3つのアルバムの録音プロセスというか、制作プロセス、創作プロセスが見えてくるものだから、本当に興味が尽きない作品です。

例えば6枚組のほうでいうと、3枚目は1枚全部『ライク・ア・ローリング・ストーン』なんです。ワルツ・タイムで演奏しているデモ・ヴァージョンが入っていたりして、テンポを変えたり、編曲をがらりと変えたりしています。マニアック度はやや高いかも知れないけど、特にこの時期のディランを好きな人なら、絶対に飽きない。予想をはるかに超える内容のものでした。

衝撃を受けた日本公演のライブを収録

ヴァン・モリスンの『デュエッツ』は2015年ベストテンに間違いなく入る作品で、ボブ・ディランはベストテンには入らないけれども非常に思い出深い一枚。一方、このウェザー・リポートのライヴ・アルバムは、2015年の年末ギリギリに出たのでランク外になりましたが、もうちょっと前に出ていればベストテンに入れてもよかったというほどの作品です。

1978年の4人でやった時のツアーと、80年から81年にかけての5人でやっている時のツアーから選曲した4枚組のライヴです。おそらくウェザー・リポートがいちばん幅広く聴かれていた、人気の高かった頃といっていい。タイトルは、「伝説のライヴ・テイク」という意味で、ジャケットは成田空港の北ウイングを出たところで撮影されています。

僕は78年のコンサートを観たのをはっきり覚えています。ベースのジャコ・パストリアスが弾きまくっていて、本当に衝撃のライブだった。その日本公演の曲も結構入っています。ちなみにメンバーは、78年はジョー・ザヴィヌル(キーボード)、ウェイン・ショーター(サックス)、ジャコ・パストリアス(ベース)、ピーター・アースキン(ドラムズ)。80年〜81年のライヴはそれにロバート・トマス・Jr(パーカッション)。このアルバムのプロデューサーは、当時のドラマーだったピーター・アースキンが担当しています。

ウェザー・リポートは、ビートは非常にファンキーなんですが、即興もいっぱい入っているし、ファンキーなだけじゃなくポリリズムが強く感じられる。当時の僕にはそれまで聴いたことのない斬新さで、しかも、とても分かりやすかったんです。特にライヴでの即興が素晴らしくて、8分とか10分とか、結構長い演奏が多いですから、曲数はそれほど多くないのに、4枚組になっています。

ウェザー・リポートは、ジャズをジャズから解放したジャズグループといえばよいでしょうか。よくフュージョン・バンドと称されますが、ピーター・アースキン本人がこのアルバムの解説で、「われわれは何も融合させたつもりはない」と書いています。そういうジャンル分けは本当に意味がないと思う。とにかく、似たバンドは他に一つもない、ウェザー・リポートはウェザー・リポートでしかないと実感させてくれるライヴ・アルバムです。

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。

photo: Tsutomu Sakihama