30年間カレーを食べ歩いた私が理想を詰め込んだ「贅沢カレー」を作ってみたら、お口も時間も満足感でいっぱいになった

リリース日:2022/07/20 更新日:2024/08/06

30年間カレー食べ歩き専門だった「はぴい」こと飯塚敦さんが、家でもおいしいカレーが楽しめるように自分だけの「贅沢カレー」にチャレンジしました。作ったのは、こだわりを詰め込んだ欧風カレー。レシピも掲載しています。

  1. 私にとっての「贅沢カレー」とは
  2. 時間をかけて丁寧に、欧風カレーを作る【レシピ付き】
  3. 完成した贅沢カレーを食べる
  4. 外食カレーの良さを自作カレーに生かす楽しさを知ってしまった

「はぴい」こと飯塚敦と申します。カレーが大好きな男です。

 

私はフードジャーナリスト・カレーライターとして、日本全国やアジア各地のレストラン・食堂でカレーを食べ歩いています。

 

ブログ「カレーですよ。」は16年目を迎えました。また月刊誌での連載は10年目に突入し、私が知る限りでは、日本のカレーコラムの最長連載記録を更新し続けています。

 

「プロの手による本物」という部分にこだわり、基本的に「プロの調理人が作ったカレー」のみを食べ続けてはや30年。食べ歩いたカレーは累計1万食を突破しています。

コロナ禍という日常で、外食に出るのがはばかられる空気はいかんともしがたいものがありますね。

 

だからこそ、この状況下でおうちで外食に劣らないおいしいカレーを食べたい人もたくさんいるでしょう。私もその一人です。

 

そこで普段は外食応援として外でカレーを食べている私ですが、今回は家でもおいしいカレーが楽しめるように、私なりの「贅沢カレー」を作ってみました。

 

今までのカレー店での体験を振り返ることができ、あらためてカレーやカレー店が好きだなと思える、とても豊かな時間でした。

 

今回は、贅沢カレーの構想から作って食べるまでの一部始終をレポートしたいと思います。読者の皆さんがおうちでも楽しめるように、レシピも載せています。

 

私のカレーを参考に、皆さんも自分なりの贅沢カレーを作ってもらえるとうれしいです。

私にとっての「贅沢カレー」とは

おうち時間も長くあるので、せっかくならこだわりを詰めたい! そこで、どんなこだわりを詰め込むかを決めるために、まずは自分がこれまでに食べ歩いた1万食以上のカレーを振り返りました。

 

真っ先に思い出したのはホテルのカレー。

 

格式あるホテルのラウンジやカフェには、そのホテルオリジナルのカレーが用意されていることが多いです。

 

例えば、ホテルニューグランドの「ザ・カフェ」ホテルニューオータニの「SATSUKI」帝国ホテルの「パークサイドダイナー」

 

カレーと飲み物で5,000円から7,000円ほどの支払いをイメージして財布にクレジットカードを準備しておくと安心です。

 

専門店なら神田神保町の「ボンディ」や「ガヴィアル」荻窪の「トマト」も手のかかった素晴らしいカレーが食べられます。

 

例に挙げたお店で提供されているのは欧風カレーがほとんどであることに気が付きました。欧風カレーは煮込み料理で、シチューなどの調理方法を土台として作る手間のかかるカレーなんです。

 

そこで、私にとっての「贅沢カレー」は、手間ひまかけて作られた欧風カレーだという考えに行き着きました。

 

今回は、欧風カレーをテーマに、さらに自分のこだわりを詰め込んで作ってみたいと思います。

欧風カレーとはどんなカレーなのか

カレーには大きく二つの流れがあります。

 

・明治時代、イギリスからもたらされ、日本の地で「洋食」として大衆化した私たちの好きなカレーライス
・外国航路の客船やホテルのレストランで進化し、手間のかかる高級西洋料理として育った欧風カレー

 

欧風カレーの生まれは西洋料理、特にフランス料理の技法を土台としている部分があります欧風カレーの調理に用いられるのが「フォンドボー」。名前を聞いたことがある人もいると思います。

 

フォンは出汁(だし)、ボーは仔牛の意味。「フォンドボー」は仔牛からとる出汁、ベーススープのことです。

 

作り方は、仔牛の骨付き肉やスジ肉などをオーブンで焼いた後、それらを弱火でゆっくり煮込み、さらに香味野菜、香辛料、トマトなどを入れて灰汁(あく)を丁寧に取りながら時間をかけて煮込むというもの。

 

手法にもよりますが、3日もかけて(!)作ることもあるそうです。

 

大変な手間と時間がかかって、極めれば材料費も高額になる欧風カレーは、ある種「カレー界の王様」と言ってもいい料理なんですよ。

 

おうち時間が多くなった今、いつものカレーライスではなく、じっくり時間をかけた欧風カレーを作ってみる。そういう贅沢で心豊かな時間を過ごすのはちょっと良いのではないでしょうか。

 

よし、いつもはカレーを作らない私ですが、たまにはカレー、作ってみましょう!

時間をかけて丁寧に、欧風カレーを作る【レシピ付き】

欧風カレーを作ることは決定したので、ここからさらに自分のこだわりを詰め込んでいきます。そこで大事にしようと思ったのは、

 

・王道のカレーライスから外れない
・あまり甘味に偏らない
・スッキリ食べられて、またすぐ食べたくなる

 

という点です。

 

欧風カレーの王道、神田神保町の「ボンディ」などのものは甘過ぎる、濃過ぎる感があるように思います。

 

大変なごちそうで私も大好きなのですが、自分の部屋でデイリーで食べるにはちょっときついので「スッキリ感」を出したい。

 

その上で土台がしっかりとしたものを目指します。

 

自分だけでは心もとなかったので、フードスタイリストのマロンさんに少しだけアドバイスをもらいました。

 

さて、作りましょう。材料やレシピは以下の通りです。

贅沢カレーのレシピ

【材料】欧風カレー(多めの2人前)



・牛すね肉(塊)……500g:一口大に切り、塩、こしょう(各少々)する
・玉ねぎ……大2個:縦うす切り
・バター……30g
・赤ワイン……250ml
・にんにく……2片:みじん切り
・しょうが……1片:みじん切り
・赤唐辛子……1本:種を除く
・カレー粉……30g
・小麦粉……20g
・トマトペースト……大さじ2
・フォンドボー……1缶(290g)(または水300ml+ブイヨンキューブ2個)
・水……400ml
・りんご……小1個:皮ごとすりおろす(フードプロセッサーやミキサーでも良い)
・パセリ……適量:みじん切りにし茎は残す
・ローリエ……2枚
・マンゴーチャツネ(またはマンゴージャム)……大さじ2
・サラダ油……適量
・塩……適量
・粗びき黒こしょう……適量

 

【パウダースパイス】
・コリアンダーパウダー……小さじ2
・チリパウダー……小さじ1
・クミンパウダー……小さじ1
・ガラムマサラ……小さじ1

 

【付け合わせ】
・マッシュルーム……適量
・にんじん……適量
・じゃがいも……適量

 

自分だけの理想をかなえる料理というのは、買い物をするところからすでに楽しいものです。

 

食材はいつもよりも心持ちお高めで、品質で選ぶというスタイルを取りました。

 

素材は大事です。料理の味や質の底上げが間違いなくできますからね。

牛すね肉は塊を買って自分の好みでカットします。ここはこだわりたかったポイントです。

 

せっかくの贅沢カレー、いいお肉を使いましょう。イメージは「これ、カレーに入れちゃうのもったいないなぁ」というライン。

 

普段ささっと作るスパイス料理にはカレー粉は使わないのですが、「カレーライス」というスタイルのものを作る時にはカレー粉はやはり味のバランスが決まるので軸にしたいと考えました。

 

そこに別のスパイスを少し使って個性を出してあげるという構成です。

今回はフォンドボーを作るところまではしませんでした。さすがに数日がかりというのは大変です。

 

その代わり、お肉を炒めた時のワインと肉汁から成る出汁をお鍋に戻してやります。

 

これは、もともとのフォンドボーに通じるものがあると感じます。そんな空想をしながらの料理はとても楽しいですよ。

カレー店で得た知見をヒントに贅沢カレーを作る

好きなカレー店で得た知見も、贅沢カレーを作るときのヒントにしました(知見は文字の色を変えています)

 

【作り方】

 


(1)……玉ねぎの下処理をする

 


・縦にうす切りした玉ねぎを耐熱ボウルに入れ、塩(小さじ1)をもみ込む
・軽くラップをして600wの電子レンジで10分加熱する

 

(2)……【付け合わせ】の野菜を調理する

 


・食べやすい大きさに切り、火を通しておく(皮剥きののち形を整え面取りをする)
 
付け合わせの野菜

 

時間をたっぷり使うことが贅沢だと思うので、「丁寧な調理」にこだわりました。

 
こだわったのは「丁寧な調理」

 

包丁を丁寧に使ってみます。

 

じゃがいもとにんじん、レシピでは「食べやすい大きさに切り、火を通しておく」とさらっと書いていますが、丁寧に面取りをしています。

 

皮を剥いて、包丁で切った角、とがったエッヂをもう一度刃を入れて落としてやります。

 

このひと手間で価値が大いに上がるのを感じました。これをバターソテーにするのもよいでしょう。洋定食店ではなく洋食のレストランの手間のかけ方です。

 

 

(3)……玉ねぎを炒める
・フライパンにバター、サラダ油(大さじ2)を熱し、強めの中火で玉ねぎを炒める
・少し色づいてきたら弱めの中火にし、飴色になるまで炒める(焦がさないように注意。匂いの変化を気にすること)

 

玉ねぎを炒める

 

(4)……牛肉を炒める
・別のフライパンにサラダ油(大さじ1)を熱し、強めの中火で牛肉を炒め、全体に焼き色をつける
・赤ワインを加えアルコールを飛ばす

 


牛肉を炒める

 

(5)……にんにく、しょうが、赤唐辛子を(3)に加え炒める
・香りが立ってきたらカレー粉を加え炒める



(6)……(5)に小麦粉を加え炒める



(7)……(4)の汁を(6)に少しずつ加える
・トマトペーストを加え炒める。



(8)……(7)にフォンドボーを少しずつ加える
・水(400ml)を加える



(9)……(8)にりんごを加える



果物の甘味でふくよかさを出すためにりんごをいれますが、グレーダー(すりおろし用の調理器具)ですりおろして入れます。

 

バーミックス(スティック型の電動ミキサー。混ぜる以外に細かく切る、つぶすなどの調理もできます)でもいいのですが、香りの開き方や舌への当たりが変わるのが面白いですよ。

 

りんごをすりおろす

 

(10)……(9)にパセリの茎(1本)、ローリエ、(4)の牛肉を戻す
・塩、こしょう(各少々)し、弱火で1時間煮込む



(11)……(10)に【パウダースパイス】を加え10分煮込む
・マンゴーチャツネを加え、塩、こしょう(各少々)で味を調える(※一晩置くとよりおいしくなる)



スパイスも手間をかけました。

 

レシピでは【パウダースパイス】と書きましたが、パウダースパイスをただ使うのではなく、ホールスパイス(種子状のパウダーにしていいないもの)をその場で挽いてパウダーに。

 

フレッシュな香りを立ててあげます。

 

(12)……盛り付ける
・器にごはんを盛り付け、カレーをかけ、【付け合わせ】の野菜を添える
・パセリ(適量)をふり、好みの薬味を添える(※野菜は一緒に煮込んでもおいしい)

細かい作業の積み重ねで、食べた時の食感や香りからやってくるプラスアルファの要素が重なり、最終的に「すごくおいしかった」につながるのだと考えています。

 

実は、今回やってみた丁寧な技法や手間をかける考え方はお店のシェフやコックさんたちからお聞きしていました

 

記憶が頭に残っていて「コックさんが言っていたのはこのことか!」と思い出したり、言葉の意味が分かったり……。

 

自分の中に蓄積されたものが、今まさに行っている調理の中に収斂(しゅうれん)するこんなに感激することはなかなかありません。




完成した贅沢カレーを食べる

プロの作るカレーを食べ続けたからこそ形になった、私だけの贅沢カレーが完成しました。

 

調理も丁寧をこころがけたので、盛り付けも丁寧にきれいにしてみました。

うん、美しく盛り付けできました。いかにも欧風カレーという仕上がりです。

 

自分で作ったからこその満足感は代え難いものがあります。一人で食べてしまうのはちょっともったいないなぁ。次は友だちにご馳走してみましょうか。

とてもおいしかったですよ。

 

甘味は控えめとしましたが、旨みが味の底支えをしてくれてバランスしています。

 

酸味を旨みが抑え込んでエッヂを丸め、そこにチリの辛さのレイヤーが重なるという構造。

 

具材、ごはんと一緒に口に運ぶとそこで初めてバランスします。そこに持っていきたかった。

 

じゃがいもが実に良い口当たりと柔らかさに幸せを感じてしまいます。

 

にんじんもこれはグラッセか、と思うくらい素材からの甘さがでており、甘味を抑えたカレーソースとよく合います。

 

付け合わせで、玉ねぎをブラウンマスタードシードでテンパリング(インド料理の手法で熱した油にスパイスの香りをうつして熱いまま注ぐ)して、酢と合わせた簡易アチャール(インドのピクルス)を作ってみました。

 

簡単なものですが、これがあるとないとではまた体感が変わってくると思います。

 

クラシックな甘さをベースとした欧風カレーではなく、控えめな甘味に重くならない油などの量というチューニングで、少しモダンな酸味と香りが際立つ味わいの、モダン欧風カレーライスが完成しました。

 

それと大切なのは、ごはん。ごはんもおいしく炊かないとね。それもセットでのカレーライスです。

外食カレーの良さを自作カレーに生かす楽しさを知ってしまった

調理しながら、外食で得た体験を考えていました。

 

レストランでは、

 

・シェフの研鑽(けんさん)と積み重ねでできたおいしい料理
・オーナーの思いやスタッフの経験、情熱や人柄で出来上がった良いサービス
・一緒に行った友人たちとの楽しい時間
そこから生まれる信頼、ビジネスのアイデア

 

こういったものをもらっていたんですね。「贅沢な時間だったな」と振り返ることができました。

実はカレーって、「内食(家で調理して食べること)」のくくりで捉えられていることが多いんです。

 

インタビューやテレビ出演でよく「はぴいさんはどんなカレーを作るんですか?」と聞かれるのはその証拠ですよね。

 

外食応援をライフワークとしている私は、半ば意地で「カレーに関してはプロのシェフにお任せをしたいので、自分では作りません」と返してきました。

 

でも今回贅沢カレーを作ってみて、外食カレーの良さを自作カレーに生かす楽しさを味わったんです。

 

調理中にコックさんたち、シェフたちが厨房で何を行っているのか、その段取りや調理手法にどんな意味があるのか、分かるところがありました。

 

きっと次にレストランに行く時は、料理のいろいろな意味や理由に興味がたくさん湧いてくるはずです。そこから生まれるコミュニケーションも増えそうです!

 

料理をしながらいろいろなことを考え、思い出し、そこから今までの外食経験を振り返る――。良い時間を過ごしました。

レシピを自分なりに咀嚼(そしゃく)するという楽しみも大きなものでした。

 

なんでここでこれを入れるのだろう? 私ならここをもう少し強い味にしたいなど、自分のセンスでレシピを自分の方に手繰り寄せオリジナルを作り出す。楽器やオーディオ、エンジンのチューニングにも似た楽しみかもしれません。

 

手間ひまかけて、味を自分好みにするにはどうするかと考える時間を過ごすのも豊かな体験でした。

 

自分だけのこだわりを反映した贅沢カレー、皆さんもぜひチャレンジしてみてくださいね。

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はぴい(飯塚 敦)
この記事を書いた人
食の文筆家 ラジオパーソナリティ
はぴい(飯塚 敦)

※本著者は楽天カード株式会社の委託を受け、本コンテンツを作成しております。

食中心のライフスタイルブログ「カレーですよ。」に16年、5000食超の実食カレー記事を掲載。著書に技術評論社「iPhone x Movie スタイル、笠倉出版社「カレーの本」など。月刊男性誌でのカレー店訪問記事は連載10年目で、カレー専門コラムの連載で国内最長(著者調べ)。メディア出演・執筆・監修など多数。食品開発なども手がける。

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