私が思う「ださい大人」にならないために、「10年後の自分に持っていてほしい本」を選んだ

リリース日:2022/07/20 更新日:2022/08/16
三宅香帆
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三宅香帆

評論家。1994年生まれ。エンタメから古典文学まで批評や解説を幅広く手がける。”働きながら本が読める社会をつくる”をミッションに、読書や物語の魅力について発信する。著書に『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』( サンクチュアリ出版)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(笠間書院)など。

※本著者は楽天カード株式会社の委託を受け、本コンテンツを作成しております。

会社員の傍ら文筆家・書評家として活動する三宅香帆さんが「自分への投資になるお金の使い道」として、10年後の自分に持っていてほしい本をピックアップ。自身が考える「ださい大人」にならないよう、さまざまな視点で考えることをやめない「かっこいい大人」でいられるための5冊を紹介します。

  1. 本好きの私が考えた「自分への投資になるお金の使い道」
  2. 考えることをやめない大人は、きっとかっこいい
  3. 10年後も考える大人であるために選んだ5冊

Fun Pay!編集部さんから

 

「社会人になると自分のために使えるお金が増えますよね。例えば予算は2万円で、三宅さんが自分への投資としてどんなものを買うか、『有意義なお金の使い道』について記事を書いてみませんか」

 

というオファーをいただいた。

 

最初に感じたことは、「こうありたい」姿を想像して、その姿に近づけるようなものにお金を使うのが、自分にとっての投資になるんじゃないか……ということだ。

 

 

 

2019年の春、新卒採用で会社に就職し、東京へ引っ越してきた。慌ただしく毎日を過ごしている。

 

そんなふうに暮らしていると、いつのまにか、自分がどこへ進んでいるか、わからなくなってくる。

 

社会人になってからの毎日は楽しい。友達としゃべるのも、仕事をするのも、日々を過ごすのも、これといって嫌なことは見当たらない。忙しかったり寝れてなかったりすると、つらいな、と思うことはあるけれど。がんばろう、と思うことのほうが多い。

 

だけど日々を続けていった先に、「将来、いったい何が待っているんだ」と漠然と不安になる日があることもたしかだ。

 

たまに友達と「社会人になると、毎日あっという間に過ぎちゃうねえ」と苦笑気味に話す。自分は将来どこに向かいたいんだろう。日常や目の前のことにとらわれすぎず、ふっと考える区切りが、私たちには必要なのかもしれない。

本好きの私が考えた「自分への投資になるお金の使い道」

ここで個人的な話をすると、私は本が好きである。ふだん書評家として本について書く文章でお金をもらうこともある。そもそも文学のことを研究したくて文学部への進学を決めたり、というか生きてる時間可能な限りは本を読んでいたかったり(まあかなわない夢ですが!)、とにかく本が好きで今まで生きてきた。

 

だけど、なぜ本が好きかと言えば、一番は「自分が憧れるものや納得できるもの、面白いものが手に入るから」だと思う。

 

自分がこうありたいという姿も、こうなりたいという憧れも、大抵は本から手にしてきた。

 

例えば10年後。ぶっちゃけ仕事や環境がどうなっているのかなんて、まったく想像がつかない。

 

だって10年前の自分は、こうやって人前で文章を公開することも、東京で仕事をしていることも、全然想像していなかった。

 

ただ10年前から変わってないのは、「これはださいから嫌だなぁ」「これは好きだ、美しいなぁ」と思う、美意識、みたいな部分だけだ。

 

今から10年後のことを考えてみても、やっぱり私は「これは嫌」「こういうのは好き、かっこいい」と思う美意識は変わらず、環境を変えていくのだろう。

 

だとすれば自分は、10年後の自分がださい大人にならないように、自分が思うかっこよさを思い出せる本を選ぶことが、自分にとっての投資にもなるし、有意義なお金の使い方なんじゃないかと思った。

 

10年後、今の自分が見て「なんでそんな大人になってんの」と顔をしかめるような大人にならないために10年後の自分に持っていてほしい本を選ぼう。

自宅にある本棚のひとつ。本が好きなんですよ……

考えることをやめない大人は、きっとかっこいい

……と、企画にゴーサインをもらったものの、「ださい」「かっこいい」といった美意識の基準は難しい。

 

今の自分は、未来の自分にどうなっていてほしいのか。

 

本屋で悩みつつ、本棚を見てまわった。

 

 

すると、ひとつだけ自分が基準とするものがあるな、と気づく。

 

「考えるのをやめてほしくないな」ということだ。

 

 

本を読んで、作家の思想や小説の台詞に憧れを覚えるのは、言葉が、ちゃんと考えて生まれてきた言葉だからだ。共感できるかはともかく、作家自身が自分の頭で考え、自分の手で調べ、学び、そのうえででてきた言葉ならば、私はひとつの憧れを覚える。

 

考える対象は、はっきり言ってなんでもいい。自分の人生でも、世界の諸問題や社会現象でも、仕事や趣味でも、ジャンルはなんでもいい。ただ、自分が出会った何かしらに対して、「考える」ことをやめてない人は、かっこいいと思う。

 

自分が忙しくなって、考える時間がとれないと、考えることを手放したくなるかもしれない。

 

自分が何を面白いと思い、何をわからないと思うのか。世間一般はこう言ってるけれど、ほんとうは自分は何が正しいと思うのか。そんなことを考える時間がなくなるのかもしれない。

 

……だけどそれって、めっちゃださい。心底嫌だ。

 

ださい、というか、かっこわるい。
自分が考える時間くらい自分でとれよ、と自分にツッコミを入れたくなる。

 

10年後も、考える大人でありたい。

 

だって、何かを問われたとき、疲れてるから「わからない」という一言で終わらせる自分になっていたら、心底ださいしかっこわるいと今の私は絶望しちゃう。

10年後も考える大人であるために選んだ5冊

5冊、選ぶのめちゃくちゃ悩んだ

そんなわけで、私にとっての「ださい大人」にならないよう、考えるための5冊を選んだ。

 

もちろんこの「ださい」基準は私の個人的な主観だ。だけどさまざまな視点で、ちゃんと考え続けられる大人でありたい。

 

ていうか、考えるのを放棄するほど疲れてちゃだめだよ、10年後の自分! と頭をはたきたいのだ。

1. 仕事について考える/『岡本太郎と太陽の塔 増補新版』

平野暁臣著『岡本太郎と太陽の塔 増補新版』(小学館)

東京に来て、はじめて岡本太郎記念館へ行ったとき、なんてかっこいいんだろう、と驚いた。何がかっこいいって、彼の仕事がかっこいいのだ。

 

実を言うと、岡本太郎がかっこいいだなんて、なんだかミーハーというか、恥ずかしいくらいの印象を持っていた。だって「芸術は爆発だ!」ってCMで言ってた人なんでしょ? って思ってたから。だけど実際に彼の作品を見てみると、ミーハーだなんて思った自分が恥ずかしくなった。

 

彼の作品なり文章なりを読むと、生身の志がむきだしでありすぎて、おののく。志がむきだしで置いてある。志とはすなわち「今の場所を、人を、どこかちがうところに持っていこうとする」その方向性のことだ。

 

今度の万国博において、ただのお祭りじゃなくて、それを契機として日本人の人間像自体が変わらなければやる意味がないと思う

(平野暁臣『岡本太郎と太陽の塔 増補新版』小学館, 2018, pp.47)

 

この言葉が志じゃなくて、何だというのだろう? 彼の仕事を見ていると、だれかをちょっとでも動かしたい、持っていきたい、と思うその方向性なしにする仕事なんて意味がない(し、ださい)よなあ……と思ってしまう。

2. 生活について考える/『天才たちの日課 女性編 自由な彼女たちの必ずしも自由でない日常』

メイソン・カリー著、金原瑞人・石田文子訳『天才たちの日課 女性編 自由な彼女たちの必ずしも自由でない日常』(フィルムアート社)

とはいえ、仕事しか人生で記憶のない大人になりたいかと言われれば……まあ、そんなことはない。だって人生は仕事もあるけど生活もある。日々をおくるなかで、その狭間に仕事も生活も人間関係も存在しているものだ。

 

 

『天才たちの日課 女性編 自由な彼女たちの必ずしも自由でない日常』という本は、著名な女性たち(おもに表現者と呼ばれている人々)がどのようにして「生活」と「作品」を両立させたのか、143通りもの生活習慣に迫る。草間彌生、ピナ・バウシュ、ヴァージニア・ウルフ……私もよく知る作家や表現者が、自分の生きることにどうやって作品をつくることを組み込んだのか。知りたいことが書かれてある、という高揚感をもって手にとった。

 

生活と仕事を両立させることは、意外と大変だ。

 

いや、生活の一部に仕事があるはずなのに、しょっちゅうそのバランスは崩れる。だけど、本書に綴られる彼女たちは、作品に力を注げる環境づくりを、頭を使って、諦めず、つくることを続けていた。じんと感動する。生活と仕事のバランスに悩んでいるのは、私だけではない。

 

10年後、どんな場所にいようと、何をしていようと、自分がいちばん楽しくいられる生活をつくることを考え続けたいのだ。

3. 美しさについて考える/『映画の感傷 山崎まどか映画エッセイ集』

山崎まどか著『映画の感傷 山崎まどか映画エッセイ集』(DU BOOKS)

うっとりするような映画を見たい。と、つねにせつに願っている。

 

ただでさえ殺伐とした世の中である。仕事に追われ、約束に追われ、私なんか1日に一度は「遅れてごめんなさい!」と謝っているような気がする(ひどい)。10年後の自分はそんな自分じゃないと心から信じたいが、それにしたって、いつも細切れに読む読書には刺激や癒しを求め、たまに入り込んで見る映画にはとにかく「うっとり」する時間を求めてしまう。

 

インスタントな感覚刺激なんていらない、とにかく映画にはうっとりさせてほしい。――そんな欲望を持っていると、逆にうっとりできないかもしれない映画を見るよりも、うっとりさせてくれる「映画評」を読んだほうが楽しいのではないか、と思えるときがある。

 

『映画の感傷 山崎まどか映画エッセイ集』は、映画のうっとりさせてくれる部分を煮詰め、そのうえで映画に出てくる女性たちの美しさをそのまま文章に落とし込んだような映画評論集である。作者の山崎さんの美しさの基準がぶれずに明瞭だからこそ、どんな映画を評するときも、きちんと美しさに帰って来れる。

 

私は10年後、ちょっとでも映画に出てくる名女優の美しさの欠片でも(もちろん見た目のことではなく、もっと奥底の、深いところの美しさの姿勢そのものみたいなものだ)、抱くことができるだろうか。今よりも少しは成長しているといいな、という願いを込めて、この本を10年後に託したい。きっと映画にうっとりしたい欲望は10年後も変わらないだろうし。

4. 社会について考える/『ジェンダー・トラブル 新装版 ―フェミニズムとアイデンティティの攪乱―』

ジュディス・バトラー著、竹村数子訳『ジェンダー・トラブル 新装版 ―フェミニズムとアイデンティティの攪乱―』(青土社)

今問いかけられている社会の問題や、なんでだろうと憤ってしまう不条理についても、10年後アンテナを張れている大人でいたいな……と思う。歳をとって、権力を手にして(年齢を重ねると嫌でも人は「年齢の差」によって多少なりとも権力を持ってしまうと私は思っている)、あんまり社会について考えなくても自分は生きていけるような立場になったとしても。そのとき、「社会について何も考えないでいい」と言ってる大人にもし自分がなっていたら、ださすぎる~! と心底思うのだった。

 

大人になったからこそ、社会について考えないと。

 

というわけで、社会の大きな問いかけであるひとつの問題、ジェンダーについて綴られた古典を選んだ。著者のバトラーは、セクシュアリティの問題を学問に落とし込み、そのうえ現在のクィア理論(幅広いセクシュアリティについてさまざまな視点から読み解いていく研究分野の総称として呼ばれる)に大きく影響をあたえた人物である。私たちがぼんやり感じている身体と性別の問題について、彼女は考えることをやめなかった。

 

何かを考えるとき、本も読まずネットも調べず、考えるままであるのは愚かだと私は思う。だってまずは、先人たちが何を考えてきたのか知らないと。知らないまま考えるなんてただの怠惰だと、今の私は思っている。

 

10年後、社会はどんな問題をはらんでいるのか。そのとき、私は、それについて考える自分でいるのだろうか。

5. 知識について考える/『巨大なラジオ/泳ぐ人』

ジョン・チーバー著、村上春樹訳『巨大なラジオ/泳ぐ人』(新潮社)

10年経ったとき、いちばん「なりたくない!」と悶絶するのは……私にとって、「頭の回転が遅くなってること」である。

 

いや今だってたいして頭のキレはよろしくないのだが、これ以上愚鈍になっていたら、文字通り頭を抱える。むり。考える大人でありたい、と思いつつ、そもそも頭が鈍っていてはマジ何もできない。こわい。

 

賢くなっていたい。年月を重ねたぶんだけ。

 

そう願うからこそ、現代の情報の膨大さや、とにかく忙しくしてしまう大人たちに「危険じゃん?」と笑うような、現代の私たちをそのまま切り取ったような小説が収録されている本を選んだ。本書は短編集なのだけど、収録されている「サットン・プレイス物語」には、こんな台詞がある。

 

でも柵に上るんじゃないよ。向こう側に落っこちちゃうから。そして川の強い流れに飲み込まれたら、もう一巻の終わりだからね

(ジョン・チーバー著、村上春樹訳『巨大なラジオ/泳ぐ人』新潮社, 2018, pp.61)

川の強い流れに、どうにかして抗っていきたい。どうしたって速い速い時代の流れは存在している。根がのろいから、はやくついていかないと、と焦ることもある。だけど、それでも、私は私のペースを守りたい。そして、川に飲み込まれて頭を鈍らせたくない。

 

頭の回転が遅くなることが私に起こるとすれば、単に、老化したからではないだろう。それは考えることをめんどくさがって、「川の強い流れに飲み込まれ」ることを、よしとしてしまったからなのだ。

 

あ、抗いたい!

 

 
 

10年後の私に、読んでほしい。そのために本を買った。

 

予想よりずっとずっと面白い経験だった。どんな自分でありたいんだろう? と心底考えるきっかけになった。

 

電子書籍だってあるし、図書館だってある。けれど、一度「10年後の自分」を想像しつつ書店に足を運ぶと、ちがったものが見えてくるはずだ。

 

10年後も、本は残る。なりたい自分は、そこにいるのだ。

 

◆三宅香帆の「有意義なお金の使い道」
・『岡本太郎と太陽の塔 増補新版』……3,300円
・『天才たちの日課 女性編 自由な彼女たちの必ずしも自由でない日常』……1,980円
・『映画の感傷 山崎まどか映画エッセイ集』……2,420円
・『ジェンダー・トラブル 新装版 ―フェミニズムとアイデンティティの攪乱―』……3,080円
・『巨大なラジオ/泳ぐ人』……2,530円
 合計:13,310円(税込)
※価格参照/楽天ブックス

 

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