「本当に好きなものに囲まれる生き方」とは。大正から昭和初期のモダンガールを研究する淺井カヨさんに聞く

リリース日:2024/01/16 更新日:2024/01/16

東京都小平市に、まるで建物ごとタイムスリップしてきたかのような、古めかしい和洋折衷の住宅があります。その名も「小平新文化住宅」。

 

大正末期から昭和初期の時代を愛する、日本モダンガール協會代表の淺井カヨさんと、音楽史研究家の郡修彦さんご夫妻のお宅です。

 

お二人は住居だけでなく、ファッションや生活にも当時のライフスタイルを取り入れています。自分たちの「好き」を追求した暮らしは、一体どのようなものなのでしょうか。当時の生活や、好きなものへのお金の使い方について、話を聞きました。

  1. 冷蔵庫は木製、洗濯は基本手洗い。当時の生活様式を取り入れる
  2. 当時としては裕福だったモガ・モボ
  3. 昭和初期の住宅を「オーダーメイド」で建てる
  4. 好きなものに囲まれることで、世界が広がっていく

 

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冷蔵庫は木製、洗濯は基本手洗い。当時の生活様式を取り入れる

──お二人は、大正末期から昭和初期の生活様式を暮らしに取り入れられていると伺いました。例えば、食事はどうされているんでしょうか?

 

淺井カヨさん(以下、淺井):モダンガール・モダンボーイ(モガ・モボ)の文化とその時代を研究して、当時の生活様式を暮らしに取り入れるという形をとっています。

 

食事は基本的には和食で、ご飯は土鍋で炊いていますね。コンロは鋳物(いもの)コンロで、鍋やフライパンはホーローや鉄製のものを使っています。当時の料理本を見て作ることもあります。

 

冷蔵庫は電気ではなく、木製の「氷式冷蔵庫」です。上部に氷を入れて食材を冷やす仕組みで、現在は高級寿司店などで使われることがあります。

 

氷式冷蔵庫

 

2016年当時に購入したもので、30万円ほどしました。氷はたまたま近所に氷屋がありまして、自転車で買いに行きます。真夏だと1~2日、真冬なら1週間以上はもちますね。といっても、実際に氷はそこまで頻繁に買いません。

 

台所には床下貯蔵庫があって、冬は特によく冷えるので、今の時期(11月中旬に取材)にはほとんどそこに食材を入れています。ワインもよく冷えますよ。

 

ちなみに冷凍食品を買うことはないですね。冷蔵庫は氷冷式ですし、解凍する電子レンジがありません(笑)。

 

──洗濯はどうされているんですか?

 

淺井:以前は、昭和30年代に作られた手回し洗濯機を使っていました。今でも汚れがひどいときは使いますが、普段はほとんど手洗いですね。

 

固形石鹸で汚れを落として、お湯で洗います。ただ、濡れた洗濯物をすべて手で絞るのは身体上の理由でどうしても難しくて…。脱水機は現代のものを買いました。

 

──他にも、現代の家電を使われているところはありますか?

 

淺井:掃除機ですね。以前、骨董市で1930年代の掃除機を試す機会があったのですが、音が大きすぎてとても使えませんでした。古いものは排気の性能も良くないですし、ほうきやハタキを使うとホコリが舞ってしまうので、割り切って新しい掃除機を使っています。それから、居間の石油ストーブは家電量販店で買いましたし、パソコンやスマートフォンなども使っています。

 

郡修彦さん(以下、郡):あとはエアコンですね。私がオーディオの仕事をしているので、1階の自室にはエアコンを設置したのですが、2階の家内の部屋にはありません。風通しの良い間取りにしていたこともあって、この家を施工した当時は家内も「大丈夫でしょう」と言っていたのですが…。

 

淺井:今年(2023年)の夏はかなり厳しかったです。どうしても暑いときは郡の部屋に避難していました。昨今のこの暑さでは、エアコンなしには暮らせないですね。昭和初期はこのような気候ではなかったはずですから…。

当時としては裕福だったモガ・モボ

──大正末期から昭和初期の暮らしは、実際にはどのようなものだったのでしょうか。

 

淺井:『値段の風俗史』(週刊朝日編)によると、昭和5年には豆腐が5銭、幕の内弁当が30銭、上野・青森間の鉄道旅客運賃が7円26銭だったようですね

 

編注:大正15年(昭和元年)当時の1円は現在(令和元年)の1,962円相当の価値があった。

格差も激しかったようです。食べることに困っている人もいれば、富裕層は電気洗濯機や食器洗い機などを使っていたという資料もあります。

 

この中でもモガ・モボは比較的裕福なほうでしょうね。モボは結構見栄っ張りで、月賦(げっぷ)で無理な買い物をしてはお金がなくなっていたみたいです。大きなトランクを持って銀座を歩くのだけど、中身は何も入っていないとか(笑)。

 

郡:ファッションも、庶民にとっては高価なものだったと思います。当時はまだ和装が中心で、百貨店のワンフロアが呉服売り場だった時代です。洋装の女性自体が珍しかったですし、男性の背広も1920年代はオーダーメイドが主流でしたしね。

 

──お二人が今日着られているのは、当時を再現した服ですか?

 

郡:そうですね。襟の大きさや第1ボタンの位置、股上の長さなど、昔の資料を見て寸法を割り出して、すべて仕立屋さんにお願いして作っています。

 

淺井:女性の洋装も、当時の日本人のものはなかなか残ってないですね。骨董市を探したり、同時代の洋服を海外のオークションサイトから個人輸入したりしています。それを元に、服飾の職人さんにお願いして、新たに仕立ててもらうこともありますね。

 

インタビューは和室で正座というスタイルで行われた

 

淺井:タイのチェンマイに腕のいい職人さんがいて、以前は、タイ旅行を兼ねて作ってもらっていたんですよ。日本から布を持っていくんです。当時の値段で安いものだと1着1万円、高くても5万円くらいでした。まぁ、交通費は別途かかるのですが(笑)。

 

──そこまで淺井さんを駆り立てる魅力は、どこにあるのでしょうか。

 

淺井:モダンガールという呼称が出てきたのは大正12年で、時代を経るごとにイメージが変わっていきます。昭和6年刊行の『モダン用語辞典』にはこう書いてあります。 

「近代女性及び男性、新しい女及び男。大正の末期から昭和へかけて流行した語で輕佻浮薄、享樂的な若い男女に對する輕蔑語。元來は眞面目な意味で、内容的に考察すれば近代思想に目覺め、教養あるべき青年男女のことであらねばならない」『モダン用語辞典』

──軽佻浮薄(けいちょうふはく、言動が軽く浮ついていること)、享楽的な若い男女に対する軽蔑語……。かなり印象が悪くなっていますね。

 

淺井:昭和初期になると不良の要素が強まるんです。当時の資料を読めば読むほど、モガ・モボの捉え方が時代や人によって異なり、全貌がつかめない。それが逆に面白くて、ずっと研究を続けていますね。

 

淺井さんの蔵書。モガ・モボだけでなく、さまざまな資料から大正末期から昭和初期を研究している

昭和初期の住宅を「オーダーメイド」で建てる

──ここからはお二人がお住まいの「小平新文化住宅」について聞かせてください。こちらは大正末期から昭和初期あたりの建物をリフォームされたものなのでしょうか?

 

淺井:いえ、完全な新築です。大正末期から昭和初期にかけて作られた「文化住宅」を参考に、私たちで外観や内装などをイチから考えました。和洋折衷の洋館付き住宅で、玄関や居間、台所などの生活空間は和式、洋館の部分は応接室になっています。

 

懐かしさを感じられる「玄関」

 

洋館部分に設けられた「応接室」

 

郡:間取りを何十パターンも考えて、最終的に模型も作りましたね。施工してくれる工務店を探すのには半年かかりました。一般的な住宅とは柱の長さや天井の高さなどの規格が異なり、対応が難しいようでした。

 

淺井:窓枠もアルミサッシではなくて、当時の形を木製で再現したものですからね。2階の窓の一部は、昭和5年に建てられた家からいただいたものを移築しました。ガラスも当時のものなんですよ。

 

──まったくのオリジナルで、ここまで作り込まれるのはすごいですね…!ちなみに、土地や建物に費用はどれくらいかかったのでしょうか?

 

郡:土地はもともと郡家のもので、建物は建築当時(2016年)の価格で3,000万円ほどかかりました。特注で作っていただく部分が多かったものの、台所は現代のシステムキッチンを入れるより安かったみたいですね。

 

台所。シンクや壁はタイル貼りに

 

淺井:台所は研ぎ出し(セメントと種石を塗りつけた後に研磨して仕上げること)の流し台を作っていただいたり、職人さんにタイルを貼ってもらったりしたんです。本当は窓を部屋の端まで広げたかったんですけど、強度の関係で叶わなかったんですよね。

 

郡:建築基準法が変わっていて、当時の構造のままでは作れないと。階段の角度も、本当はもっと急にしたかったのですが、「今はこの角度では無理です」と言われました。

好きなものに囲まれることで、世界が広がっていく

──自分が好きなものに囲まれた生活をするうえで、「こうしたものを取り入れる」といった基準のようなものはあるのでしょうか?

 

淺井:物を買うときは、何でできているか、どこで作られたか、どういう人がどういう気持ちで作ったのかを考えます。ちょっとした小物でも、伝統があるものや、職人さんが一つひとつ丁寧に作られたものには愛着が湧きますし、長く使うことが多いです。

 

たまに基準が定まらず、そうでもないものも買うこともあるんですよ。でもやっぱり、自分にあわないものが身の回りにあるとストレスを感じてしまって、使えなくなってしまいますね。

 

──ということは、「当時の生活をしよう」という意図で物を揃えていったわけではく、基準にあったものを取り入れていった結果今に至る、ということでしょうか。

 

淺井:そうです。大正末期や昭和初期ありきではなく、自分がいいなと思うもの、心地良いと感じるものを揃えていったら、ほとんどがこの時代のものでした

 

一時期は骨董市に行くたび山ほど買い物をしていたのですが、最近は厳選して、なるべく少ないもので暮らすことを意識しています。古いものでも、きちんと手入れをすれば綺麗な状態に戻りますから。玄関に置いてある黒電話も、一所懸命磨いたものなんですよ。

 

淺井さん「資料館に置いてあるものより綺麗だと思います(笑)」

 

──お二人のように好きなものを生活に取り入れたいけど、なかなか一歩踏み切れない方も多いのではと思います。

 

淺井:好きなものがあることは本当に良いことなので、どんどん取り入れられたらいいと思います。私の場合はもう、体調に影響しますから(笑)。我慢をすると、結局自分が元気でいられないんです。好きなものに囲まれることは、心身にすごく良い影響を与えてくれると感じています。

 

あとは、自分だけで楽しむのではなく、外に開けるようになると良いですね。最初は私も、好きだという気持ちだけでやっていましたけど、それが徐々に仕事になったり、活動を通じてさまざまな方と会えたり、自分の一生が変わるような出会いもありました。そうした発展があると、世界がより広がっていくのではと思っています。

 

取材・執筆:井上マサキ

写真:関口佳代

編集:はてな編集部

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淺井カヨと郡修彦
お話を伺った人
淺井カヨと郡修彦

※本著者は楽天カード株式会社の委託を受け、本コンテンツを作成しております。

淺井カヨ(写真右)
自称「大正65年」(本来は昭和51年)生まれ。大正末期から昭和初期を生きた日本の「モダンガール」と、その時代の研究や講演を行う。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)。

郡修彦(写真左)
昭和37年東京都生まれ。音楽史研究家。

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