ハトマスクから始まった世界への冒険。デイリーポータルZ編集長・林雄司さんが振り返る、思い出のコト消費

リリース日:2022/08/16 更新日:2022/08/16
林雄司
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デイリーポータルZ編集長

林雄司

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林雄司

イッツ・コミュニケーションズ株式会社勤務。1971年東京生まれ。1996年から個人でサイト制作を始め、2002年にデイリーポータルZを開設。編著書に『死ぬかと思った』シリーズ(アスペクト)、著書に『会社でビリのサラリーマンが1年でエリートになれるかもしれない話』(扶桑社)などがある。

※本著者は楽天カード株式会社の委託を受け、本コンテンツを作成しております。

デイリーポータルZ・編集長の林雄司さんが、「クレジットカードにまつわる思い出」を振り返ります。クレカを利用してネット通販で手に入れたハトマスクから始まった世界への冒険。思い出のコト消費を紹介します。

  1. 記事を書くことを言い訳に、ネット通販で無駄な買い物ができる
  2. ネット通販での買い物をきっかけに、新しい世界に触れる
  3. アメリカでの体験を経て、ノンバーバルなおもしろさを目指すように
  4. ひとつの買い物が人生の転機に。これからもクレジットカードで気軽に冗談を買っていきたい
クレジットカードの基礎知識のほか、お金を使って得られた「コト消費」について発信するWebメディアFun pay!。今回Fun pay!編集部は、「クレジットカードに紐付いた思い出深いエピソード」をテーマにしたインタビューを実施。

お話を聞いたのは、ゆかいな気分になる読みもの記事を、毎日休まず更新する「デイリーポータルZ」の生みの親であり、17年にわたり編集長を務める林雄司さんです。

“へんな買い物”の達人でもある林さんの自宅には、ネット通販で買い集めた海外のヘンテコなおもちゃや、役に立たないおかしなグッズが山と積まれています。

そんな林さんが、特に思い出深いアイテムのひとつに挙げるのが、アメリカのネット通販で購入したハトマスク。ほんの冗談のつもりで買ったそれは、やがてさまざまなヒット企画やイベントにつながり、林さんの価値観にも大きな影響を及ぼしたといいます。そして、そこから生まれた新たな企画は海を越え、世界中に笑いを届けるという予想もつかない展開に。

クレジットカードでの買い物から端を発した、林さんの体験を伺いました。

***

記事を書くことを言い訳に、ネット通販で無駄な買い物ができる

―― 林さんが最初にクレジットカードを作ったのはいつですか?

 

林雄司さん(以下:敬称略): 社会人になってすぐに作ろうとしたんですよ。でも審査に落ちました。あれって、その当時だと落ちるとぴろぴろの封筒が届くんですよね。明らかにカードが入ってない、やわらかいやつが。普通に会社員だったんですけど、ああ作れないんだ……と思いましたね。

  

それからしばらくして、なんとなく思いたって作った気がします。銀行口座にくっついてくるクレジットカードで、それは審査に引っ掛かることもなくすんなり作れました。

 

 

―― 今は、ほとんど現金を使わないそうですね。

 

林: そうですね。ネットショッピングと、普段の買い物や飲み代もキャッシュレス決済なので、現金はほぼ使わないです。近所にある野菜の無人販売所だけですね、現金払いは。だから財布も小さくしたんですよ。中身はクレジットカードと最低限の現金のみで、入りきらないぶんは家の貯金箱へ入れてしまうので、小銭がどんどん貯まります。

―― 林さんはネット通販で、よく変わったものを買っているとか。それは、デイリーポータルZの企画にするために買うんですか?

 

林: 記事にできるかなという思いはありますけど、具体的な企画がなくてもお店であまり売ってないものを見掛けたらとりあえず買いますね。食用金箔とか、チアリーディングで使うポンポンとか。記事を書くのを言い訳に、無駄な買い物をしていいということにしています。

 

 

―― なかでも印象深い無駄な買い物として林さんが挙げられるのが、「ハトマスク」。こんなの、どうやって見つけるんですか?

 

林: デイリーポータルZ(以下、DPZ)でハトの記事をよく書いてたんですけど、そしたら知り合いが「ハトマスクを売っているアメリカの通販サイトがあるよ」って教えてくれたんです。

 

妙にリアルなハトで、ぜんぜんかわいくない。これは欲しい! となったんですけど、そのショップの通販では日本への発送を行っていなくて、アメリカの通販サイトの買い物を代行してくれる会社に頼んで手に入れました。それが2013年くらい。

最初に2枚買って、夫婦でかぶったらなんかおもしろかったんですよね。

参考記事:ハトになりました(写真提供:DPZ)

それで次は追加で8枚買って遊んでたら、たまたまGoogleストリートビューにうつりこんで話題になった(参考記事:ストリートビューの撮影を見た)。

 

もっとハトを増やしたいと思って、ハトナイトというイベントもやりました。来場者全員に配るために110枚のハトマスクを買って。

参考記事:来場者をハトにするイベント(写真提供:DPZ)

―― ひとつの買い物をきっかけに、活動の規模がどんどん広がってますね。

 

林: そのときくらいから、このハトマスクを売っている「アーチーマクフィー」っていう会社がこっちの存在に気付いたみたいですね。なんか自分たちのマスクをかぶってストリートビューにうつっているやつらがいるぞと。

 

 

―― 2015年には、林さんがシアトルにあるアーチーマクフィーのショップを訪問されていますよね。その時も、すごい歓迎ぶりだったとか。

 

林: そうですね。ウェルカムボードに描かれていた僕の目が茶色で、アメコミタッチになってました。

参考記事:ハトマスクの故郷に行った(写真提供:DPZ)

―― 当時のレポート記事からは「天才だ。やっぱりこの店、すごいぞ」や「アメリカのすごさを感じた」など、林さんの興奮が伝わってきます。特に、どんな点に感銘を受けましたか?

 

林: ハトマスクみたいなおかしなものって、サブカルチャー的じゃないですか。日本でいうと、ヴィレッジヴァンガードみたいな。でも、アメリカだとあまりそういう感じがないんですよね。いや、サブカルチャーではあるんだけど、明るい感じ。ひねくれていない。

 

あと、日本でそういうおかしなことをしていると、そんなことしてて商売になるの? とか、なんでやってるの? みたいなことを言われるじゃないですか。でも、あっちでは訳の分からないものを作るという、その行為自体をどうこう言うことはなくて、おもしろいかどうかだけ。

 

しかも、それがちゃんと商売になっているんですよね。冗談がちゃんと商売になる。DPZもインターネットでおかしなことをしているので、もしかしたらアメリカのほうが生きやすいのかもしれないと、そのとき思いましたね。

ネット通販での買い物をきっかけに、新しい世界に触れる

―― DPZもアーチーマクフィーも、「おかしなことをして笑いたい」という点は共通しています。ただ、明らかな違いも感じたそうですね。

 

林: シアトルのアーチーマクフィーに行く直前、サンフランシスコで「札束風呂」のイベントをやったんですよ。バスタブを札束でいっぱいにして、みんなで入るっていうイベントです。

参考記事:札束風呂、アメリカでうけました(写真提供:DPZ)

アーチーマクフィーの人にそのイベントのことを話したら、「うちの店にもある」って言って、バスタブにタコの足がみっちり入った「タコ足風呂」を見せられたんですよ。天才だなと思いました。これは敵わないと。

 

 

―― 訳が分からないけど、なんともいえないおかしさがありますね。

 

林: そう。札束風呂は「お金持ちのパロディ」という意図があるんですけど、バスタブにタコはそういうものが何もないじゃないですか。おもしろさの根拠とか理由がいっさいなくて、唐突。でも、きっちりおもしろい。それって、おもしろの作り方として高度だし、明るく見せているし、すごいなと。

 

なかでも一番びっくりしたのは、「ヨーデルピクルス」ですね。ピクルスにボタンがついていて、押すとヨーデルが流れる。ぜんぜん分からないじゃないですか。ただ、おもしろいだけ。

 

DPZでもたまに、でかいマウスをふざけて作ったりしますけど、それは記事にして終わり。でも、ヨーデルピクルスは型を作って量産している。我々はまだ「物は役に立つ」っていう価値観を捨て切れていない消費社会に生きているけど、そういうのを超越しちゃってる感じがしますよね。

 

実際、アメリカっていろんな街に、おもしろグッズを売ってるノベルティショップがあるんですよ。だから、冗談がちゃんと商売になるんでしょうね。

 

 

―― そういうショップは、ヴィレッジヴァンガード的なものとはまた違う雰囲気なんでしょうか?

 

林: ヴィレッジヴァンガードよりも、もう少し一般的な感じですね。スーパーのおもちゃ売り場とかにも普通にアーチーマクフィーのグッズが置いてあって、おもしろグッズが身近なんだなと思いました。ふざける土壌が整っているというか。

アメリカでの体験を経て、ノンバーバルなおもしろさを目指すように

―― アーチーマクフィーを訪れたことで、林さんがおもしろいと思うものの定義や、実際の企画、記事の作り方などは変わりましたか?

 

林: 変わった感じはしますね。それまでのDPZの企画って、なんだかんだ何かのパロディが多かった。あとは、今これが流行ってるから逆にこうしよう、みたいなカウンターですよね。たとえば、ペリーが日本に開国を促す提案書をパワーポイントで作ってきたらどうなるか、みたいな記事はパロディじゃないですか(参考記事:ペリーがパワポで提案書を持ってきたら)。ああいうのって、ネットが好きな日本人にしかうけない発想ですよね。

 

 

―― 2010年の記事ですね。その時期の林さんの記事は、確かにパロディが多めだったように思います。

 

林: そういうパロディやカウンターとか、ひねくれたものよりは「頭が鳩になってたらおもしろい」とか、「バスタブにタコの足が入ってたらおかしい」みたいなことのほうがいいんじゃないかと、アーチーマクフィーに行ってから思いはじめたんですよね。

 

たとえば、2016年に「顔が大きくなる箱」を作ったんですけど、そういうノンバーバルというか、誰にでもわかるものに意識が向くようになりました。

参考記事:顔が大きくなる箱(写真提供:DPZ)

―― それ以前にも「タバコの箱を大きくする」企画などはやられていましたが、「顔を大きくする」は、より直感的ですよね(参考記事:でかいタバコの箱)。

 

林: そう、直感的ですね。なんでかわからないけど面白い。そういうものがいいんじゃないかなと。

 

 

―― 直感的であればあるほど、言葉や文化を超えてより広く伝わりますよね。それこそ「顔が大きくなる箱」は国境を越え、2017年以降は世界各地で展示を行うなど、どんどん拡大しています。

 

林: 2017年から外国に行って、現地の人の顔を大きくする活動を続けています。オーストリア、アメリカ、中国、ベトナム、フランスのアートイベントなどで展示しました(参考記事:顔が大きくなる箱への世界の反応)。

―― 記事の動画を見ましたが、大うけでしたね。

 

林: 特にアメリカと中国でうけました。海外だと、おじさんやおばさんが率先してふざけてくるんですよ。もう箱をかぶる前から鼻歌を歌ってる人が多くて、ごきげんなんです。デフォルトのごきげんレベルが高いおじさんばかりなんで、おもしろいものにすぐ飛びついてくる。それで「おもしろかった!」って、ゲラゲラ笑いながら帰ってく。すごくいいですよね。

 

 

―― 世界中に笑いを振りまいている。すごい箱ですね。

 

林: 顔が大きくなる箱って、それがあるだけで、みんながおもしろくなれるところがいいですよね。アーチーマクフィーのグッズも同じ思想で作られていて、たとえば友達がハトマスクを持ってたら「おまえ、おもしろいもの買ったな」ってなると思うんです。作ってる会社じゃなくて、買った人が主役になれる。

 

これからはたぶん、そういうもののほうが未来があると思います。「ペリーがパワポで~」とかだと、自分が働いたぶんしかコンテンツやお金が生まれない。パロディみたいなものも、たまにやって評判がよければ気持ちいいし、おもしろいネタが浮かんだらまたやると思うんですけど、それだけ続けてたらずっと自転車操業じゃないですか。

 

それよりも、顔が大きくなる箱のほうが、コンテンツとしてはレバレッジが効く。作り方をインターネットで公開することで、知らない人がSNSで「#Big Face Box」っていうハッシュタグで公開してくれるから、拡がりがあるしおもしろいなって。お金にこそなってませんけどね。

 

 

―― 「おれが作ったんだ!」みたいな自己顕示欲は、うすれてきた感じですかね。

 

林: そうですね(笑)。もう歳もとってきたんで。だから、自己顕示欲があるライターを見ると、まだ若いなーと思いますね。ウフフ。

ひとつの買い物が人生の転機に。これからもクレジットカードで気軽に冗談を買っていきたい

―― では、今後のDPZはどうなっていくんでしょうか?

 

林: へんに凝ったものじゃなくて、シンプルでいいと思うんですよね。ライターにも、自分が単純におもしろいと思うことを記事にしてくれと、ずっと言い続けています。みんな、つい凝った企画を出しがちなんですけど、「ズボンの片方のすそに両足を入れるとおもしろい!」とか、そういうのでいいよって。

 

いや、本当にそんなんでいいのかな? いま言いながら不安になりましたけどね。

 

 

―― DPZは年々企画のクオリティが上がり、記事のボリュームも増えている印象です。でも、昔はもっとシンプルで短い記事も多かったですよね。

 

林: そうそう。昔は穴を掘るだけの記事とかありましたからね。タイトル「穴を掘る」でしたから。四文字。今のネットメディアのタイトルの長さからすると信じられないですよね(参考記事:穴を掘る)。

 

でも、それでいいと思ってます。かっちりしすぎた企画よりも生活の延長で気づいたことでいいし、文章ももっと短くていい。そんなにちゃんとしてなくていいかなって。

 

 

―― シンプルにおもしろいことを追求する。アメリカでの経験も経て、一周まわって原点に返ってきた感じがしますね。

 

林: そう、だから最近は、けっきょくカラオケ大会が一番おもしろいんじゃないかなって思います。みんなで歌うっておもしろいじゃないですか。何年か前にDPZの15周年企画で、カラオケ大会をしたんですよ。蒲田の健康ランドみたいなところで宴会しながらカラオケ。もう、変わったこととかやらなくていいんじゃないかと思って。ここにきて、メインカルチャーにどんどん向かっているのかもしれないですね。

―― ネット通販で買ったハトマスクがきっかけとなってアメリカでの出会いが生まれ、林さん個人の価値観にも大きな影響を与えて、DPZで数々のヒット作を生み出している。ひとつの買い物が、人生の転機になるなんてことがあるんですね。

 

林: 普段、そんな深刻な感じで買い物してるわけじゃないですけどね。ネット通販って、ボタンひとつでへんなものが何でも買えるじゃないですか。一斗缶入りの業務用のかりんとうとか、アメリカのマイナーリーグの、知らないチームのTシャツとか。ふざけて注文しても、ちゃんと届く。そういうのがおかしいんですよね。

 

最近はクラウドファンディングでへんなものをよく買ってます。バナナ型の電話とか、ものすごく小さいロボットアームとか。小さすぎて七味唐辛子の缶を持ち上げるくらいしかできないから、七味をずっと持ち上げたり離したりして遊んでます。

 

現金だと買い物に真剣みが出ちゃうから、ああいうのはクレジットカードでしか買えない気がする。冗談を買えるのが、クレジットカードのいいところじゃないですかね。

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