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自筆証書遺言書の作成事例|特別な事情がある場合に気を付けることを解説③
自筆証書遺言書とは、法律で定められた方法に基づいて自筆で作成する遺言書です。今回は認知症の妻の介護を相続人にしてもらう代わりに多く財産を渡したい場合、配偶者が終身の間自宅に住み続けられるようにしたい場合に気を付けるべき注意点を個別事例を参考に解説していきます。
事例1 認知症の妻の介護を相続人にしてもらう代わりに、多く財産を渡したい場合
遺言書記載例
遺言書
遺言者は、認知症を発症している妻花子が自分の死後も不自由なく生活できるよう、次のとおり遺言をする。
第1条 遺言者は、所有する財産の全てを長男太郎に相続させる。
ただし、長男太郎は、妻花子が存命中は適切な障害福祉サービス及び医療サービスを受けられるよう介護をすることとする。
第2条 長男太郎は、前条の負担を相続財産の範囲内で介護を行う業者に委託することができる。
第3条 遺言者は、次の者を遺言執行者に指定する。
氏名 法野三郎
住所 東京都港区〇〇一丁目〇番〇号
生年月日 昭和〇年〇月〇日
職業 弁護士
第4条
1 遺言執行者は、長男太郎が第1条に定められた負担が履行されているか監督することとする。
2 長男太郎は、遺言執行者に対し、1年に1回以上妻花子の生活状況及び収支報告を行うものとする。
3 長男太郎は、遺言執行者から妻花子の生活状況に対して問い合わせがあった場合、一定の期間内に回答するものとする。
記載に関してのポイント解説
(1)遺言に記載することで、財産を受ける相手に負担を負わせることも可能です。
本件においては、認知症の妻の生活の安定を求める代わりに、財産を相続させるという内容です。
ただし、介護は長男にとって大変な負担となる可能性がありますので、事前に本人との話し合いをしっかり行っておく必要があります。
また、地域の社会福祉士やケアマネージャー等との事前相談も必要になると考えられます。
長男に介護や身の回りの事務作業を行わせることが適切でない場合は、成年後見制度等を利用して第三者に任せるという方法もあります。
(2)長男が相続をしたにもかかわらず義務を果たさない場合は、他の相続人は履行を請求することができます。
さらに応じない場合は、裁判所へ負担付の遺言の取消しを請求することもできます。
事例2 配偶者が終身の間自宅に住み続けられるようにしたい場合
配偶者居住権を設定することで、自宅を相続しなくても住み続けることができます。
遺言書記載例
遺言書
第1条
遺言者は、その所有する次の不動産(以下「本件建物」という。)について、無償で使用収益をすることができる権利である配偶者居住権を、妻の田中花子(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。
不動産の表示
所 在 ○○市○○区○○町1番地1
家屋番号 1番1
種 類 居宅
構 造 木造瓦葺平家建
床 面 積 100㎡
第2条
遺言者は、本件建物を配偶者居住権付きとして長男の田中太郎に相続させる。
第3条
遺言者は、本遺言の遺言執行者として、妻田中花子を指定する。
遺言執行者は、配偶者居住権の設定の登記手続等、本遺言の執行に必要な一切の権限を有する。
記載に関してのポイント解説
(1)民法の改正により、令和2年4月1日以降に作成された遺言等において、配偶者居住権を設定することができるようになりました。
配偶者居住権とは、居住中の建物について、終身の間、無償で住み続けられる権利を言います。
(2)配偶者居住権は次のいずれかの方法によって成立します。
・遺産分割協議において設定したとき
・配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
(3)遺言書に記載する際の注意点は次のとおりです。
・配偶者居住権を【遺贈する】と記載する必要があること。
・配偶者居住権を取得した相続人がその建物に居住していること。
・遺言者と配偶者居住権を取得した相続人が婚姻中であること。
(4)存続期間を定めることができますが、定めなかった場合は自動的に【終身】となります。
(5)配偶者がそこに終身住み続けることが理想なのかどうかを含めて検討する余地があります。
配偶者居住権付きの不動産の売却先を探すことは一般的に困難であり、配偶者居住権自体を譲渡することもできません。
また、途中で配偶者居住権を合意解除または放棄することも可能ですが、その際には贈与税等の予期せぬ税負担が当事者間に発生してしまう場合もあります。
(6)建物の全部が居住用でなくても問題はありません。
配偶者居住権は、建物の全部について使用収益することができますが、その建物全体が居住用でなくても問題ありません。たとえば、建物の一部が店舗であったとしても、店舗部分も使用することが可能です。
(7)配偶者居住権を取得したらすぐに登記をしましょう。
配偶者居住権を取得したことを第三者に主張するためには不動産登記が必要です。
登記前に建物を相続した他の相続人が、その建物を売却してしまった場合、配偶者居住権はその購入者に対して主張することができなくなってしまいます。
注意事項
(1)遺言書記載例は一部抜粋で記載しているため、このまま作成しても自筆証書遺言書としての効力が生じない可能性があります。
(2)掲載日時点での法制度に基づき作成しております。
(3)個別具体的な検討を要する場合もありますので、予め専門家等に相談をするなど、作成者自身の責任において遺言書を作成して頂けますようお願いいたします。
まとめ
自筆証書遺言書を作ることで、遺された家族のためにできることがたくさんあります。
ただし、本当にその方法が正しいのかをきちんと考え、時には家族と話をすることも必要です。せっかくの遺言書が望まない結果になることを防止することができるでしょう。
このテーマに関する気になるポイント!
- 負担付の相続や遺贈をすることは可能?
可能です。 - 負担を付けることの注意点は?
受け取る側の立場の事情や意向を確認しておくことが望ましいです。 - 負担を履行しない場合は?
他の相続人が履行を請求することができ、それでも応じない場合は、遺言の無効を訴えることも可能です。 - 配偶者居住権とは?
遺言書で配偶者居住権を遺贈することで、取得することができる権利。
設定された建物に、原則として終身の間無償で使用収益することができます。 - 配偶者居住権を取得する条件は?
・遺言者と配偶者居住権を取得した相続人が婚姻中であること。
・配偶者居住権を取得した相続人が現にその建物に居住中であること。
・建物の所有者が、亡くなった配偶者の単独所有又は夫婦共有であること。
・遺贈・死因贈与・遺産分割協議のいずれかの方法で取得したこと。 - 配偶者居住権を遺言書に記載する際の注意点は?
本当に配偶者がそこに住み続けることが本人にとって理想であるのかどうかを検討する必要があります。 - 配偶者居住権を取得したら気を付けることは?
・建物所有者に無断で第三者に使用収益をさせてしまうと、配偶者居住権が用法違反のために消滅してしまう可能性があること
・配偶者居住権の登記をしておかないと、建物を取得した第三者等に主張することができないこと。
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