そのためだけに旅に出る NIPPON ONE THEME TRIP

vol.07

幻想的なクラゲの世界に癒やされる

~神奈川・新江ノ島水族館~

今回のテーマは、クラゲ。海水浴場で人を刺すなど、厄介者のイメージもあるけれど、とても美しい生き物なのだ。ふわふわと浮遊する姿を見ているだけでストレス軽減するという、癒やし効果も報告されている。展示に力を入れる水族館が増えているなか、旅先に選んだのは、世界有数の展示で知られる新江ノ島水族館。吸い込まれるような不思議空間を、クラゲと一緒に漂ってみる。

クラゲの前に……
イワシの群泳に大感動

新江ノ島水族館は、鎌倉にほど近い神奈川県藤沢市の海辺にある。目の前に相模湾が広がり、海の向こうには富士山や江の島が見える。旅の目的地にふさわしい、素晴らしいロケーションだ。

チケット売り場に向かうと、出入り口のゲートの上に乗っている巨大なクラゲのオブジェに目が止まる。クラゲが大好きな担当者たちが、細部までこだわり抜いて本物そっくりにつくったものだそうだ。クラゲ飼育研究のパイオニアとして60年以上の歴史があるだけに、並々ならぬ思いが溢れ出ている。帰る頃には、私もクラゲに魅せられて、担当者の気持ちに近づけるかも。そんなことを思いながら館内に入ると、最初の展示で足が止まった。

相模湾を模した大水槽の中で銀色に輝き、一瞬、一瞬のうちに形を変えて渦を巻き、うねりながら泳ぐマイワシの大群。近くを通りすぎる魚たち。悠々と横切るエイもいる。イワシの群泳がこれほどダイナミックで美しいものだとは。クラゲを見たくて来たけれど、イワシも圧巻だ。この調子で見とれていては先へ進めない。困った。けど楽しい!

ポリプはポリープ?
担当者・足立さんのクラゲ愛

足を止め、感嘆しながら時間をかけて館内をめぐり、ついに、クラゲの元にたどり着いた。まず、クラゲ担当の飼育技師、足立文(あや)さんの案内でバックヤードにお邪魔し、クラゲの飼育作業を見せていただく。通常は非公開だが、「お泊まりナイトツアー」「バックヤードツアー」などのイベント時、毎月9日の「えのすいクラゲの日」などに見学できる場合があるのだ。

「クラゲの謎は尽きることがありません。脳も心臓もエラもない。でも、感覚器や筋肉、神経はあり、人類よりもはるかに長い年月、地球上で生命をつないで生きています。飼育するのは難しいですが、手をかけたら育ってくれる。でも、決して懐かないところがいいんです」

ミズクラゲの場合、受精卵から極小の幼生になり、ポリプという小さなイソギンチャクのような姿になって増殖する。そこから小さな小さなクラゲが生まれ、浮遊しながら育っていくのだが、足立さんは、この「ポリプ」を世に広めたいという夢をもっている。
「ポリープと同じ語源なんです。実は私、健康診断で胃にポリープがあると言われて、不謹慎かもしれませんが嬉しかったんですよ! クラゲと同じだーって(笑)。幸い、問題はなかったんですが、より一層、クラゲに親しみを感じてしまいました」

クラゲが刺すのは、生きていくために必要だから。刺す理由を考えると共感し、ますます好きになってくる。ゆらゆらと変化し続ける形を見逃さないよう、一瞬でも目を離したくない。寝ても覚めてもクラゲのことを考えている足立さんの話はどれも面白く、自分でも飼ってみたいと思うほど引き込まれてしまった。

そんな彼女が愛情を注ぐのはクラゲだけではない。大水槽で行われるショーにも出演しており、魚たちとも仲良しなのだ。水中で手招きをする足立さんにスーッと寄り添うエイのオセロ君。頰ずりをする姿になぜか胸が熱くなり、不覚にも涙が出そうになったのだった。

まさに異空間。独特のリズムで
揺らぎ、漂う無心の世界

そして、いよいよクラゲの展示エリア「クラゲファンタジーホール」へ。まるでクラゲの体内に入り込んだかのような、半ドーム式の空間に、14種類ほどのクラゲが展示されている。中央に置かれているのは、「クラゲプラネット(海月の惑星)」と名付けられた球型の水槽(写真)。流れる水の奥でゆらゆらと揺らめく姿は幻想的で、吸い寄せられるように見入ってしまう。

「何のために生きているのか、何を考えているのか、心はあるのか……。クラゲを眺めていると、ふと自分自身のことを考えてしまいます。そんな不思議な生き物なんです」と話していた、足立さんの言葉がよみがえる。

壁面にも大小の水槽が置かれ、さまざまなクラゲがそれぞれのリズムで揺らぎ、踊る。
「優雅にたなびくこの美しい触手になら、巻きつかれてみたいとさえ、ふと思えてしまいませんか?」(アカクラゲ)
「鮮やかな橙色をしていますが、これは薄い表皮の色。その下の中身は、本当に透きとおった無色透明です」(パシフィックシーネットル)
一般的な解説文とは異なる、足立さんたち担当者の感性で書かれた一言がまた心にしみる。クラゲを見ながら、自分自身の内部を旅しているような心持ちにもなってくるから不思議だ。人それぞれに感じ方があり、その時の状況や心境によっても違ってくるのだろうなあ。

時々はこうして、クラゲを見に来るのもいいな。お土産は、担当者のこだわりが詰まったクラゲパン(写真のとおり、口腕もついている)と、オリジナルのクラゲストラップのガチャガチャ(大人買い!)。案内してくださった広報室の井上麻子さん(写真)に見送られ、水族館を後にした。いつか、「クラゲの日」にも来てみたい。これからは、海でクラゲを見かけても、今までとは違った見方ができそうだ。

Data

新江ノ島水族館(愛称:えのすい)
神奈川県藤沢市片瀬海岸2-19-1
TEL:0466-29-9960
http://www.enosui.com/
小田急江ノ島線「片瀬江ノ島駅」徒歩3分、江ノ島電鉄「江ノ島駅」徒歩10分、湘南モノレール「湘南江の島駅」徒歩10分。
「クラゲファンタジーホール」では、世界初となる3Dプロジェクションマッピング クラゲショーも見ることができる。日本初の本格的なJAMSTECの有人潜水調査船「しんかい2000」などの展示も見どころ。

Enoshima more info.

新江ノ島水族館のある片瀬海岸は、湘南のイメージそのもの。「東洋のマイアミビーチ」とも呼ばれる美しさで、毎年夏には多くの海水浴客で賑わう。また、水族館から少し足を延ばして江の島大橋を渡れば、古くから参詣・遊山の地として知られる江の島にも行くことができる。地ビール「江の島ビール」も、さっぱりとした味わいだ。

神奈川をもっと楽しむ

料理屋 大三

鎌倉・若宮大路に面しながら、入り口は路地裏という、ちょっと不思議なお店が「料理屋 大三」。瀬戸内の海の幸と厳選された地酒を楽しめる、落ち着いた和食店です。看板料理は、店主・橋田大三さんの故郷・愛媛県今治市から取り寄せた天然真鯛を使った「鯛めし」。薄味に炊き上げたご飯のひと粒ひと粒に、鯛の旨味がしっかり染みています。愛媛や京都、さらにスペインやキプロスなど国内外で日本料理の腕を磨いてきた橋田さんが生み出す味わいが、古都鎌倉で花開きます。予約制のため、事前に必ずご連絡を。

神奈川県鎌倉市雪ノ下1-9-30 田中屋ビル203
0467-22-9648
http://daizo-cuisine.com

photo: Keiko Mizukai text: Reiko Kado