そのためだけに旅に出る NIPPON ONE THEME TRIP

vol.06

世界のデニムの聖地、岡山にあり!

〜岡山・倉敷(児島)、井原〜

大抵のものは手近なところで間に合ってしまう時代だが、産地へ足を運び、本場の空気を吸い、つくった本人の手から「特別」と思える1着を買う。そんな贅沢な時間を持てるのは人生の幸せだ。今回、訪れるのは国産デニムの本場、岡山。世界が注目するこのまちで、どんな1着、どんな人とめぐりあえるのか。行ってみよう、春らんまんの“晴れの国”へ!

国内外の最高級ブランドも
高く評価する岡山デニム

シルエットがきれいで履き心地がよく、ちょっと自慢できるこだわりがあり、スタイルよく着こなせるジーンズが欲しい。見つかるといいなと楽しみにしながら、岡山駅から高松方面に向かう電車に乗った。約20分で児島駅に到着。ホームに降りると、ジーンズ柄の自動販売機が目に飛び込んでくる。ほかにもある、ある。エレベーターに階段、壁、窓、乗車券の券売機までジーンズ一色。ついに来た、ジーンズのまちに。

江戸時代から綿花栽培で栄え、繊維産業が発展した岡山県では、戦後の1960年代からデニムやジーンズの生産が始まった。国産デニムの発祥が井原市、国産ジーンズの発祥が倉敷市児島ともいわれている。デニムとジーンズの違いは明確ではないが、一般には生地をデニム、製品になったデニムパンツをジーンズと呼ぶそうだ。

古くからの藍染織物技術、日本ならではの繊細さと発想力、先端技術によってつくられる岡山のデニムは、いまや世界最高品質として名だたるブランドに採用されている。そう聞くと誇らしい。車内がジーンズで埋め尽くされたユニークなジーンズバスに乗り、向かった先は「児島ジーンズストリート」。まずはここで、お店めぐりを楽しむことにしよう!

こんなデニムがあったとは!
アイデア満載、個性豊かな店主たち

「ここに集まっているお店は、個性的で面白いですからね。『ひと回りしてきます』と出かけたお客さんがみな、クタクタになって帰ってこられます(笑)」
楽しそうに話してくれるのは、「BLUE TRICK」の店主、水谷哲士さん。実際そのとおりで、気になるお店をのぞきながらジーンズストリートを歩くと、あっという間に数時間。デニム製品の世界はこんなに広く、奥深いのかと驚くばかりだ。

極太の0番糸でステッチを施す「Senio」では、その力強さに引きつけられた。何軒か離れたところにある「ハイロック」は、パターン(型紙)から裁断、縫製、販売まで、こだわりのライダースジーンズを家族4人でつくっているお店。最先端のレーザー技術を用いたデニム加工の様子を映像で見せてくれた。オレンジ色の帽子が似合う「カミカゼアタック」の金澤憲彦さん(写真)は、ジーンズのテフロン加工を試みたことがあるという。軒先のサンプルに水をかけると、水が玉になって転がり落ちた。すごいと目を見張っていると、「水を弾きすぎて洗濯できず、全然売れなかったんですよ」と苦笑い(笑)。

水谷さんの「BLUE TRICK」も自社ブランドだ。夫婦で商品を企画し、妻の美知香さんがデザインとパターンを担当。井原市内の工房で縫製をしている。驚くのは生地の織りの豊富さだ。パッチワークの写真を見てほしい。柔道着と同じ織り、剣道袴と同じ二重織り、備後絣。
「アイデアが生まれるのは、ほとんどが専門の職人さんたちとの飲みの席(笑)。こんな生地をつくれないかな、面白い、やってみよう!と話が決まる。産地ならではのスピード感です。デザインよりも先に生地ができ、それを見て、どんなものをつくろうかと考えるのは楽しいですよ」

柔道着の生地を織ったときには、本来は白い柔道着を織るための織機に藍の染料がつき、洗浄が大変だったとか。なので、同じ生地は二度とつくれず、製品も現物限り。最後の1枚を購入したのは、この連載を担当している写真家のMさんだ。そして私は、水谷さんの見立てでワンウォッシュのストレートジーンズを1本。美知香さんが試行錯誤の末に完成させたデザインは、すらりと脚長に見えるうえ、生地の柔らかさと風合いが抜群だ。さすがは手織りに近い、昔ながらのシャトル織機で織られたセルビッチデニム。すっかり気に入り、大満足!

井原デニムの手織りを体験
長く愛用し、育てていく楽しみ

「児島ジーンズストリート」には、平日は店を閉めて製品づくりに専念し、週末や祝日のみ営業する店もある。水谷さんもそうだ。普段、どのように製品がつくられているのかを知りたくて、ご厚意に甘え、翌日は井原を案内してもらった。

児島からは、車で約1時間。まず、井原駅構内にある「D# THE STORE」へ。デニムの手織り体験ができるところは珍しいうえ、予約不要でしかも無料。教えてもらいながら織ってみると、理屈がよくわかって面白い。タテ糸は藍色、横糸は白色。この2色の糸により、表が藍、裏が白のデニム地が織り上がっていくわけだ。織機やシャトル(横糸を通す道具)を使うのも楽しくて、つい時間を忘れてしまいそう。

通常は見学できない洗い加工工場と織物工場も見せていただいた。国内外のハイブランドから注文を受け、常に新技術の開発にも取り組んでいるだけに、素材や技法の詳細は公開できないのだ。一端を垣間見た職人技の数々は驚きの一言。「デニムは、最終段階の洗い加工によって表情が無限に変わります。だから面白い」というのは、洗い加工の老舗(株)辺本の辺本桂介さん。「海外で高評価をいただいていますが、日本のデニムだから、やはり日本の人に着てほしい」とは、明治25年創業の高木織物(有)4代目、高木茂さん。彼らはこの井原で、世界が驚く一流の仕事をし、世界と闘い続けている。

旅の最後は、水谷さんの縫製工房にお邪魔した。ベテランの職人さんたちが、和気あいあいとミシンに向かい、1枚1枚、丁寧に縫い上げていく。大切なデザイン帳を見せてくれた美知香さん(写真)は、「考えるのが楽しくて仕方ないんです。つくりたいものがいっぱいあって」と柔らかい笑顔で話してくれた。「10年、20年と長く着てもらいたいから、経年変化を楽しめるような仕掛けを盛り込んでいます。それが私のこだわりの部分かな」

私の購入したジーンズも、ここでこうしてつくられたのかと思うと、なおさら温かく大切なものに感じられてくる。大事に履いて、育てて、味わいを楽しもう。美知香さんの着ていた複雑なジャガード織のデニムコートが素敵で、さらに財布の紐を緩めてしまったのも必然。これまた毎日着てもいいくらい、大満足のお気に入り!

Data

BLUE TRICK(ブルー・トリック)=写真
岡山県倉敷市児島味野2-2-65
TEL:0866-62-3801 営業時間:土・日・祝日のみ。10:00〜18:00
井原の縫製工房(有)ミズタニの自社ブランドで、「児島ジーンズストリート」内に実店舗がある。店主の水谷哲士さんは、同業7社でつくる岡山デニム協同組合の代表幹事としても日々奮闘中。全国各地の催事でも岡山デニムを紹介している。 http://www.bluetrick.co.jp
岡山デニム協同組合 http://denim.okayama.jp/

D# THE STORE(ディーシャープ ザ ストア)
井原鉄道井原駅構内 TEL:070-5057-6070
手織り体験のほか、高品質な井原デニム製品を各種購入できる。営業時間などの詳細はwebサイト参照。 http://www.ibara-denim.com/

Okayama more info.

倉敷市児島は瀬戸内海に面しており、瀬戸大橋と多島美が絶景。BLUE TRICK近くの「米八」では、名物“手長たこ”のお好み焼きがおすすめ(写真左)。井原市では、近代彫刻界の巨匠、平櫛田中(ひらくしでんちゅう)の作品を保存展示している「井原市立 田中美術館」が必見(写真右は所蔵作品の「試作鏡獅子」)。「美星天文台」など星空の美しさでも知られる。このほか、岡山では6/30まで大型観光キャンペーン「晴れの国おかやまデスティネーションキャンペーン」が展開されており、県内全域でさまざまな催しを楽しめる。

岡山をもっと楽しむ

すてーき西岡

岡山駅からほど近い至便な場所にありながら、落ち着いた佇まいでゲストを迎えてくれる「すてーき西岡」。上質な素材の味わいを、心をこめたサービスで堪能していただきたいと、席数は鉄板カウンター13席のみ。国内外で腕を磨いたオーナーシェフが、地元産の「千屋牛」をはじめとする特選和牛や、産地直送の魚介類を、最高のタイミングで焼き上げてくれます。ステーキは、こだわりの合わせ塩や本生わさび・粒マスタードでシンプルに。ラインアップも豊かなワインとの相性を楽しめば、そこに大人の時間が流れ始めます。

岡山県岡山市北区磨屋町8-28-1 山崎ビル1F
086-235-4129
http://www.steak-nishioka.jp/

photo: Keiko Mizukai text: Reiko Kado