そのためだけに旅に出る NIPPON ONE THEME TRIP

vol.05

人、自然、風土すべてを内包する繊細美。 宮古上布の世界にひたる

〜沖縄・宮古島〜

宮古上布という美しい布を知っているだろうか。上布とは、上質な麻織物のことをいう。髪の毛よりも細い苧麻(ちょま。島の方言ではブー)の糸で織られた布はトンボの羽ほどに薄く、深い藍色に真っ白な十字絣が浮かぶ様は、星空の輝きにも例えられる。苧麻の栽培から糸績み、染色、織り、仕上げまで、すべてを島内でまかない、450年もの間、手作業でつくり続けられた奇跡のような布。その布を訪ねる旅は、温かい出会いに満ちていた。

すべての人の手が合わさって
宮古上布はできている

国の重要無形文化財でありながら、きもの展示会などを除いては、なかなか目にする機会のない宮古上布。ほんの一端でも神髄に触れるには、どなたを訪ねればいいのだろう。宮古織物事業恊同組合に問い合わせると、事務局の下里まさみさんが話してくれた。
「宮古上布づくりは完全分業制。糸績みから仕上げまで各工程に専門の職人がいます。すべての人の手が合わさって、宮古上布はできているんです」

もう1人、相談にのってくれたのが「宮古島ひとときさんぽ」のガイド、中村良三さん。一度限りの観光ではなく、島の人々や暮らしに接してほしいと、地域と一体になった体験プランを企画している人だ。
「宮古上布は、宮古島そのもの。人も、自然も、歴史も、文化も、すべて宮古上布を通じて語れるほど奥深いものです」

気さくで明るい2人と連絡を取り合ううち、友人に会いに行くような気分になってきた。宮古上布と宮古島は、期待を裏切らない。中村さんの言葉に心躍らせながら、飛行機に乗った。

宮古上布を身にまとう
島の精のような人

「宮古島の海がこんなに美しいのは、なぜだと思いますか?」
真っ白な砂浜の向こうに、澄み切ったターコイズブルーの海が広がる。到着早々、絶景に目を奪われる私に中村さんが言った。
「宮古島の地層は、隆起したサンゴ礁の琉球石灰岩でできています。水はけがよくて川ができないので、土砂が海に流れ込みにくいんですよ」
石灰岩からはじまる島の物語。長年、水不足や干ばつに苦しんできたこと。アルカリ性の土壌が苧麻の生育に適していたこと。苧麻からつくられる宮古上布を税金として課す「人頭税(にんとうぜい)」に、人々は200年もの間、苦しめられてきたこと。話に耳を傾けながら、歴史に思いをはせる。

午後、宮古上布の試着を体験できる「工房がじまる」に案内してもらった。弾けるような笑顔で迎えてくれたのは、宮古上布作家の羽地直子さん。分業制の中では珍しく、娘の美由希さんとともに、苧麻から糸をつくる苧麻績み(ブーンミ)、染色、機織までをこなしている。裏の畑には、糸の原料になる苧麻をはじめ、染色に使うインド藍やフクギ、月橘(げっきつ)など多彩な植物が植わっている。「いろんな染料を試しているんです。フクギと藍の組み合わせで染まる、きれいな緑色がとても好き。もちろん、琉球藍で染める濃紺も」

宮古上布で仕立てられたきものは、光に透けるほど繊細でありながら、力強い。羽織ると驚くほど軽く、涼しく、品よく艶やかだ。一つひとつの工程について聞けば聞くほど、どれだけの手間と時間をかけてこの1着がつくられたことかと気が遠くなってくる。
「えーっ、私が?」恥ずかしがる直子さんに、ぜひにと着ていただいた。ガジュマルの大木の前にすっと立つ姿は、凛として美しい。森から生まれ出た、島の精のように思われた。

次代を担う人たちとともに
伝統の技を習う

翌日は、宮古島市伝統工芸品センターへ。この日は、宮古苧麻績み(ブーンミ)保存会による糸績みの講習会が行われるのだ。教えてくれるのは、15歳の頃からブーンミを続けてきた昭和7年生まれの下地ヨシさん。乾燥させた苧麻の繊維を、爪を使って細く裂き、結び目をつくらずに指で撚りつないでいく。挑戦したが、果てしなく根気のいる仕事だ。爪を丸く切っていたのが最大の失敗だった。悔しくて、「次は、爪を伸ばして来ます」と言うと、ヨシさんはニッコリ、「必ずだよ。待っているからね」。握った手のやわらかく温かかったこと。

組合の専務理事、上原則子さんの案内で、図案作成や絣くくり、藍染の工程も見せてもらった。染め職人の下里愛子さんは織り手だったが、5年前、55歳で染色の勉強を始めたという。「後継者がいないと聞き、私がやらなくちゃと思って。1つでも工程が消えると、宮古上布は途絶えてしまうから」。
藍液をもみこむ手元を見る。糸を1本も無駄にしないように。織りやすく、絣模様がきれいに出るように。心の声が聞こえてくるようだ。

機織も見学できる。草木染めの着尺を織っていたのは、1年前、31歳で東京から移住した研修生の栗原麻子さん。20歳のころに見た宮古上布の美しさが忘れられず、この世界に飛び込んだ。緻密でありながら、情感の漂う作品を織るのが夢だ。「宮古上布は、すべてつながっているところが好き。糸をつくってくれる人、染めてくれる人がいるから私たちは織ることができるんです」とほほえむ木村麻衣子さんも元研修生。一生続けられる仕事に出会えたことが幸せだと、一心に機に向かう。

夢中で見ているうちに閉館時刻になった。何か手元に持っていたくて、皆さんに柄を選んでもらい、名刺入れを購入。触っていると、一つひとつの十字絣が、出会った一人ひとりのように思えてくる。再会を期して空港へ向かうと、まさかの最終便欠航で滞在が1日延びた。島の神様の計らいか。再び笑顔で迎えてもらい、まるで親戚や友人が一度にできたようだ。きっとまた会いにこよう。次こそは、糸をしっかり績める爪にして。

Data

宮古島ひとときさんぽ(写真左)
「宮古上布と藍染め体験」「宮古の織物ナイトサロン」など、島の人々や暮らしに触れる体験プランを各種企画している。要予約。
http://www.plannet4.co.jp/hitotokisampo/

宮古島市伝統工芸品センター(写真右)
宮古島市上野字野原1190-188
TEL:0980-74-7480
入館料無料。宮古織物事業協同組合が運営しており、宮古上布づくりの工程や機織を見学できるほか、財布や名刺入れ、ストールなどの製品も購入できる。2016年度の苧麻績み講習会は日程が未定なので、宮古苧麻績み保存会事務局(TEL0980-77-4947)に直接問い合わせを。
開館時間:9:00〜18:00 (年末年始は休館)
http://miyako-joufu.com/

Miyakojima more info.

神の島、祈りの島と呼ばれる宮古島。訪れたら、まず「漲水御嶽」(はりみずうたき 方言:ぴゃるみずうたき)で挨拶を。「宮古島市総合博物館」では、宮古の自然や歴史、民俗、文化が一堂に展示され、昔の民家での暮らしや、宮古上布のすばらしい作品を見ることができる。島には3本の大きな橋があり、なかでも2015年1月に開通した全長3540mの「伊良部大橋」は、無料で渡れる国内最長の橋。ドライブしながら、世界屈指の透明度を誇る海を見渡せる。

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塩屋 宮古店

「塩屋」(まーすやー)は、沖縄県内はもちろん国内・世界各国の塩を豊富に取り揃えた国内最大級の塩の専門店です。店名となっている「まーす」は、沖縄の方言で塩のこと。塩粒の大きさや岩塩・海水塩などの成分、味わいや産地の違いなど、さまざまな種類の塩を紹介すると共に、どう使い分けると料理がおいしく、楽しくなるかを教えてくれます。「塩屋 宮古店」には雪塩ソフトクリームのイートインコーナーもあり、ゆっくりと落ち着いた雰囲気。ソルトソムリエとの会話を楽しみながら、好みの塩を見つけてください。バスソルトやマッサージソルトといった美容効果のある商品も人気です。

沖縄県宮古島市平良字西里 240-6
0980-75-5011
http://www.ma-suya.net

photo: Keiko Mizukai text: Reiko Kado