そのためだけに旅に出る NIPPON ONE THEME TRIP

vol.03

冬の北陸。金沢の鮨が、
今いちばん旬である

〜石川・金沢〜

今回の旅のテーマは、ベストシーズンを迎えた日本海の幸を心ゆくまで味わうというもの。目的地は、金沢。北陸新幹線が開通し、関東地方からも、ぐっと行きやすくなった。水揚げされたばかりの輝くような甘エビ、ズワイガニ、寒ブリにノドグロ、バイ貝。そのまま刺身で食べても最高に美味だが、金沢は鮨もおいしいと聞く。至福の味に思いをはせて、いざ、北陸へ!

活気あふれる近江町市場は
まさに海産物の天国!

東京発の北陸新幹線。時刻はまだ朝の7時すぎだというのに、車内にはウキウキと華やいだ空気が充満していた。土曜日とあって、家族連れやグループ旅行が多い。楽しそうな笑い声が方々から聞こえる。長野を過ぎ、日本海側へ抜けると、右手の車窓から富山湾が見えてくる。ああ、もうすぐだ……。期待に胸が高鳴る。乗客の多くが、きっと同じような心持ちでいるにちがいない。

午前10時前、終点の金沢駅に到着。早速、徒歩15分ほどの距離にある近江町市場へと向かった。ここは、日本三大市場の一つに挙げられる、通称「金沢市民の台所」。着いた早々、山のように積まれた殻つきの大きな能登牡蠣が目に飛び込む。その場で食べられるというので800円のものをいただくと、「開けてみたら身が少し小ぶりだったから」と、もう一つおまけしてくださった。周囲にはあふれんばかりのカニ、エビ、魚の数々。ここはまさに海鮮天国ではないか!

市場の中でも海鮮丼や鮨を食べられると聞き、さっそく二階の鮨店で金沢の第一食を。地元金沢の握り鮨は、生の魚介をそのまま使って握り、みりんの入った少し甘めの醤油をつけて食べるスタイルが多い。富山湾の宝石といわれる白エビ、甘エビよりもとろりと濃厚な甘さのガスエビ、アワビに勝るとも劣らない食感をもつバイ貝など、どれも初めて口にする地のものばかり。と、「金沢は、回転寿司もおいしいですよ」と地元の方。うーん、胃袋がいくつあっても足りないかも。

海に生きる人たちの姿に
見惚れる、夜の金沢港

こうした宝物のような海産物が、一体どこから、どんな人たちによって運ばれてくるのかを知りたくて、金沢港に足を延ばしてみた。金沢駅から車で約15分。19時すぎに着くと、ちょうど、夜のセリの準備が行われていた。カニやハタハタ、ブリ、甘エビ、バイ貝、フグ、イカ……。広い倉庫の中に、この日に水揚げされた大量の魚介類が次々に並べられていく。1回目のセリが始まったのは19時30分。赤い帽子をかぶった仲買人たちが、売り手を務めるセリ人を囲む。威勢のいい掛け声で、一瞬のうちに値段交渉が行われていく。

聞けば、金沢港のセリは朝と夜に行われているとのこと。この日は、18キロ近くある大物の寒ブリもあり、注目を集めていた。20時ごろになると、新たな漁船が次々に港へ戻り、急いで水揚げ作業が始まる。箱に満載されたカニが、元気よく手足を動かす姿は圧巻。石川県で水揚げされるズワイガニの雄は、加賀と能登から一文字ずつ取った「加能(かのう)ガニ」というブランドで知られているそうだ。水揚げが終わると、すぐに2回目のセリが始まる。水揚げもセリも、一瞬一瞬が真剣勝負の連続。ただただ、その姿に見惚れるばかりだった。

極上の江戸前鮨を
金沢の名店でいただく

旅の2日目。いよいよ今日は、金沢を代表する名店の一つ、「鮨 みつ川」でランチをいただく日だ。生の魚介をそのまま握るのではなく、煮る、蒸す、酢や塩で締める、たれに漬け込むといった技法を施す本格的な江戸前鮨の店が、金沢にはいくつもある。「鮨 みつ川」の主、光川浩司さんも、東京の名店「銀座 久兵衛」で修業した後、この地で店を構えた。今では、全国から食通が通う店として名高い。

気軽な市場の雰囲気とは異なり、しっとりとした風情がただよう、ひがし茶屋街の一画にある小さなお店。すっきりと清潔に整えられた店内が気持ちいい。12貫のランチコースをお願いすると、はじめに、酢のきいた自家製の生姜を目の前でスライスして出してくれた。これがおいしい。

鮨は、ヒラメから。口に入れると、酢のきいたシャリがほろりとほどける。旨味が凝縮されたネタと、さっと塗られた煮切り醤油が相まって、うーん、うっとりする味!

このお店では、カウンターにつけ醤油が置かれていない。そのままで十分おいしい素材の味をより引き出すため、すべてのネタに“仕事”が施してあるのだ。だから、醤油をつける必要がない。鯛、大葉を間にはさんで細く刻んだヤリイカ(ねっとりとした甘味が美味!)と続く。どれも素晴らしい。

カワハギの身に肝を乗せた一貫はバランスが絶妙。ふわりと炙ったサワラは真っ白で空気をはらむように軟らかく、口の中でとろけた。寒ブリも甘エビも、熟成させているのか旨味と食感が他とまったく違う。締めは、期間限定の香箱ガニのちらし寿司(絶品!)。1月からは、加能ガニの手巻き寿司に変わるそうで、これまた食べたくなる……。旬のつまみや地酒もいただき、何とも贅沢なランチタイムであった。

金沢には美術や工芸、茶の湯、食などに造詣の深い人が多く、常連さんの中には、器に一家言をもっている人、「どの港のどの漁船の魚がおいしい」といったことまで詳しい人も少なくないという。光川さんは、常にネタの“仕事”にベストを尽くし、店や接客の隅々にまで心を配り、全力投球で鮨を握る。ここにもまた、清々しい真剣勝負の姿があった。金沢の鮨。この味の記憶は、ここで出会った人々の姿と重なり、長く心に残っていくだろう。

Data

鮨 みつ川
石川県金沢市東山1-16-2
TEL 076-253-5005
営業時間:ランチ12:00~14:00 ディナー17:30~22:00 水曜定休
8席(カウンターのみ)。予約は1カ月前から可能。
JR金沢駅からバスに乗り、「橋場町」バス停下車。徒歩約6分。

Kanazawa more info.

加賀百万石の城下町、金沢には観光の見どころもいっぱい。日本三大名園の一つ「兼六園」をはじめ、「金沢城公園」「近江町市場」など、いずれも金沢駅からアクセスがよく、足を延ばしやすい。「鮨 みつ川」のある「ひがし茶屋街」は、金沢三茶屋街の一つで、しっとりとした風情が漂う古い町並みが印象的。金箔や加賀友禅、麩、和菓子などを扱う、しゃれたお店も多い。

金沢をもっと楽しむ

浅田屋

ゆったりと流れる川に木の橋がかかり、石畳の茶屋街は、灯ともし頃になれば三味線の音がいずこからともなく響く。美しき古都、金沢。この街を旅するなら、やはり品格ある旅館に荷をほどき、心身を癒されたいものです。「料亭旅館 浅田屋」は、慶応三年の創業という歴史とともに、温もりあるもてなしを守り続けている老舗。数寄屋造りの、どっしりとした、しかし静謐な空間。旬の食材と季節の料理、そして石川の地酒を堪能する加賀料理。坪庭にのぞむ越前石の家族風呂。金沢ならではの風雅なひとときを、ぜひ堪能してください。

石川県金沢市十間町23
tel.076-231-2228(代)
http://www.asadaya.co.jp/ryokan/

photo: Keiko Mizukai text: Reiko Kado