そのためだけに旅に出る NIPPON ONE THEME TRIP

温泉に、おいしい朝ごはんを食べに行く

~熊本・阿蘇~

天高く、馬肥ゆる秋。新米のおいしい季節が今年もやってきた。青森の地産地消レストランに始まり、1年にわたってさまざまなテーマで全国を旅した「ニッポン・ワンテーマ・トリップ」。最終回も、やっぱりおいしいごはんを食べに行きたい。それも、いい温泉のある秘湯の宿なら言うことなし! 旅先は、熊本・阿蘇の山中にある産山村。素朴であたたかく、力強い地元の味、母の味に出会った。

湯船も手づくり
味わい深い山間の宿

川沿いの木立の中にひっそりと佇むこの宿は、産山温泉「奥阿蘇の宿 やまなみ」。母屋は築100年以上の古民家だ。気取らない雰囲気で、入り口の引き戸をがらりと開けて中に入ったとたん、ほっと気持ちがほぐれる。まるで田舎の親戚の家に来たみたいだ。

チェックインの時間よりも早く着いてしまったが、宿の二代目である若主人が快く迎えてくれ、館内を案内してくださった。私たちの部屋は、モダンに改装された露天風呂付きの和洋室。荷物を置いて、次に向かったのは離れにある大浴場だ。お湯は、地下1000mから汲み上げる源泉100 %の掛け流し。独特のぬめりがあり、とても気持ちのいいお湯だ。しかもこのお風呂、若主人の父親である宿の主人が岩を積み上げ、根気よく手づくりしたものだという。かぼちゃに似ていることから、その名も「かぼちゃ風呂」。

「最初は職人さんにお願いしたのですが、見ているうちに自分でやりたくなったようで、結局、自分の手でつくってしまったんです」と若主人。湯船から、ほんわりと湯気が立ち上る様子を眺めるだけでも心が和む。なんでも自分でつくってしまうご主人は、米や野菜づくりの達人でもあるそうだ。手づくりの食材に、手づくりのお風呂。人の手でつくられたものに囲まれていると、こんなにも気持ちが落ち着くものなのだなあ。

なお、今回の旅の内容は、今年4月に取材・撮影したものである。私たちが訪れたちょうど1週間後の4月14日に熊本地震が起きた。阿蘇地方も大きな被害を受け、しばらくは連絡を取ることもできず案じていたが、屋根の瓦が傷んだものの皆さん無事で、このすばらしいお風呂も宿の食事も変わりなく、力強く営業を続けておられる。こうして連載の最終回に、復興へのエールを込めて紹介できることが心からうれしい。

お馬さんが宿にお迎えに!
清々しい朝の乗馬さんぽ

翌朝、午前7時に宿の玄関へ。前夜、夕食の囲炉裏料理と天然温泉を堪能してぐっすり眠ったおかげで、もう少しで寝坊するところだった。急いで玄関を出ると、そこに迎えに来てくれていたのは、明るい笑顔の善野(ぜんの)雄二さん、なおさん夫妻と、優しい目をしたお馬さん。馬に乗せてもらって朝の散歩ができると聞き、申し込んでいたのだ。

草千里ヶ浜で知られるように、このあたりは馬も有名だ。乗馬体験のできる牧場も多いが、善野さん夫妻の「うぶやま馬あそび 陽なたぼっこ」は、集落の中を馬に乗って巡ることができるという一味違ったもの。3頭の馬たちと2年前に開業し、地域に溶け込みながら独自のサービスを模索してきたと笑顔で語る。私が乗せてもらったのは、黒い馬の「ミミー」。なおさんの指導を受けながら、よろしくね、と鞍にまたがり、手綱と足で馬に合図を送る。カッポカッポ。こんな初心者でも、しっかり乗せて歩いてくれた。ありがとう、ミミーちゃん!

段々畑や田んぼの間の小道を登り、林を抜け、なんと車道まで。地元の人たちが笑顔ですれ違う。往復約40分の乗馬は想像以上に楽しくて、すっかり馬が好きになり、おなかも程よく空いてきた。さあ、帰ったら朝ごはんだ。

約30種類のお漬物が並ぶ
じんわりしみる朝ごはん

見てください。ずらりと並んだお漬物の数々を! 今回の旅のテーマは、おいしい朝ごはんを食べること。この宿を選んだのは、女将直伝の“漬物バイキング”をいただきたかったからなのだ。ごはんも、ご主人と若主人の親子二代でつくった自家製米を、名水「池山水源」の湧き水で炊きあげる。女将の森本節子さんは、米仙人とも呼ばれる腕の持ち主だ。

他にもおかずが用意されている中で、こんなにたくさんの漬物を食べられるだろうか。しょっぱくないかと心配したが杞憂だった。さほど塩気は強くなく、サラダや惣菜感覚で、パクパクといくらでも食べられる。甘酢漬けに浅漬け、醤油漬け、味噌漬けと変化もあり、こんなにバリエーションがあるのかと驚くばかりだ。材料の野菜や山菜は、自家菜園や、近所の人たちの手による地元の作物ばかり。産山村には、瓜のように大きな「地きゅうり」や、地域特産の高菜など、伝統的な野菜も多い。どれもおいしくて、ごはんが進んで困ってしまう。

「昭和47年に、このあたりの農家12軒で民宿村を始めたんです。今は2軒だけになってしまいましたが、もともと農家だから、お客さんに何を出したらいいのかわからない。そこで、家のお漬物を出したら喜んでもらえたんです。20歳で嫁に来た私も、先代のばあちゃんに教わりながら、いろんな漬物を漬けるようになりました」と女将の森本さん。

「これはミョウガの甘酢漬け。真夏に1個ずつ収穫し、泥や木の葉を落として、何回も洗います。そして、口に入れたときに味を楽しめる大きさに割っていくんです。割っちゃポン、割っちゃポン、と二人がかりで。梅の木も十何本もあるから、一つずつ梅の実をちぎって1年分を漬ける。高菜も、産山の高菜は阿蘇高菜とちょっと違うんです。その時々においしく食べてもらえるように、高菜だけで3種類くらい漬けますね。大変だけど、喜んでもらえるのがうれしいから」

それでも、いまの若い人は漬物を食べなくなり、こうした伝統食をいつまで伝えていけるか気がかりだという。いや、ここでごはんを食べたら、自分でも漬けてみたくなること間違いなし。これからの季節は、白菜や野沢菜、からし菜などが旬を迎える。新米に紅葉、温泉、乗馬、そして女将のお漬物。食べたくなったら、また来よう。このためだけに!

Data

奥阿蘇の宿 やまなみ(写真)
熊本県阿蘇郡産山村田尻254-3
TEL:0967-25-2414
http://travel.rakuten.co.jp/HOTEL/70948/70948.html
JR宮地駅からタクシーで約20分。熊本空港からは車で約1時間半。

うぶやま馬あそび「陽なたぼっこ」
TEL:0967-25-3580または090-6965-6373
営業時間:9:00~日没まで
馬たちにも善野さん夫妻にも熊本地震による大きな被害はなく、6月から営業を再開している。「奥阿蘇の宿 やまなみ」宿泊者限定の「馬で行く朝の散策コース」は、6:00、7:00、8:00出発で1人4000円。約40分かけて集落をのんびり巡りながら、乗馬の楽しさを味わえる。要予約。

Aso more info.

阿蘇といえば、やはり雄大な阿蘇山に草千里ヶ浜。標高936メートルの「大観峰(だいかんぼう)に登れば、阿蘇五岳からくじゅう連山までが一望できる。また、阿蘇は、名水の宝庫でもある。「奥阿蘇の宿 やまなみ」の近くにも、美しい水をたたえた「池山水源」がある。南阿蘇に回れば、全国的に知られる「白川水源」をはじめ、数多くの水源があり、湧き水をくんで持ち帰ることもできる。

photo: Keiko Mizukai text: Reiko Kado / April 2016

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焼肉 熊一

熊本市内に2店舗を構える「焼肉 熊一」。本店は熊本城にほど近い市街地に、駐車場完備の近見店は国道3号線沿いにあり、どちらも立ち寄りやすい立地です。焼肉は、厳選された黒毛和牛を醤油、ポン酢、味噌の3種類のつけダレでいただくスタイル。石焼ビビンバや、厚切り牛タン、ホルモンなど豊富なメニューに加え、馬刺、馬レバ刺、馬カルビなど、熊本名物の新鮮な馬肉もおすすめです。

本店(写真) 熊本県熊本市中央区花畑町13-26 第一銀杏ビル1F 096-356-9577
近見店 熊本県熊本市南区近見6-1-50 096-354-8929
http://kumaichi.net