そのためだけに旅に出る NIPPON ONE THEME TRIP

野生動物の楽園。秘境のネイチャーウォッチング

~北海道・根室~

人間の生活圏のすぐそばで、野生のラッコやアザラシが海で遊び、300種類を超える野鳥たちが生を謳歌する。運がよければ、希少なシマフクロウを見られるかもしれない。日本、いや世界的にも特異な自然環境の残る根室は、知る人ぞ知る野生動植物の楽園だ。地元で活動するネイチャーガイドの方に案内していただき、大いなる地球の営みを肌で感じてみたい。

海流と霧による
特異な自然環境

根室管内は、根室市から羅臼町までの5市町村からなる。旅のスタートは、北海道の右端、本土の最東端にある納沙布(ノサップ)岬だ。日本で最も早く朝日を見ることのできる場所。夜明け前、深い霧を照らすヘッドライトを頼りに、岬へと車を走らせる。

私たちが訪れた8月、日の出の時刻は午前4時すぎだった。ガイドをお願いした「根室ネイチャーセンター」代表の澤尾秀勝さんによると、冬場でも午前6時すぎには陽が昇るそうだ。それにしても霧が深い。抜けるような青空を思い描いていたが、澤尾さん曰く、「この海霧こそ、夏の根室」。南の海上から流れてくる空気が、冷たい海流によって上空で冷やされ、水蒸気が霧となって根室半島を覆う。そのため、日光が遮られ、気温も上昇しない。至るところにある湿地帯を潤すのも霧だ。こうした環境が、根室独特の自然をつくり出しているのだという。

納沙布岬の正面の海は、オホーツク海と太平洋の境目だ。左がオホーツク海で、右が太平洋。この日は霧で見えなかったが、わずか3.7km先に北方領土の島がある。その海を、何百羽もの渡り鳥が群れをなし、まっすぐに飛んでいく。

苔むした太古の森
生命のつながり、自然の強さ

根室半島は不思議なところで、外国と見紛うような景色が次々に現れる。聞けば、アラスカ北極圏とよく似ているそうだ。日照時間が短く、気温が低いので、約2万年前の氷河期に極北から南下したツンドラ植物群が、そのままの形で残っているという。

「根室の森や自然に入っていくと、人間の活動の痕跡など些細なものだと思わせるのに十分な、説得力のある自然の強さを見ることができます」
そう話す澤尾さんが案内してくれた森は、とても美しかった。古い森の最終形態といえる針葉樹林。地面は苔で覆われ、山のように波打っている。倒れて折り重なった木の形だそうだ。それが厚い泥炭層となり、森の土台を形成している。澤尾さんにならい、手を置いてみると、クッションのような弾力があり驚いた。ふかふかで、緑のベッドのようだ。苔の上には細い若木が芽吹いている。木の赤ちゃん。生命のサイクルそのものだ。
「苔の上で、木の幹にもたれて眠っているエゾシカの姿もよく見ますよ。生きている木は温かいんですね」
こんな風景が、日常のすぐそばにあることに改めて驚く。

次に向かったのは、オジロワシがいるという別当賀川だ。カヌーを漕いで、森の奥へとのんびり川をさかのぼる。鳥や動物たちになるべく影響を与えないよう、静かに、ゆっくりと。もちろん、鳥に遭遇できるかどうかはわからない。たとえいなくても、この景色を見ながらカヌーを漕いでいるだけで十分に満足だ。

そうしてしばらく進んでいると、目の前に美しいタンチョウが現れた! さらに進むと、木の上に2羽のオジロワシが。白い尾を輝かせ、2mに及ぶ翼を広げて悠々と飛ぶ姿は優雅だ。カヌーを降りて車で北上し、野付半島に向かうと、立派な角を持つエゾシカの群れにも出合った。

「10月後半になると、オオワシやオオハクチョウ、カモなどもやってきます。1年を通じて、いろいろな動植物を見られるのが根室の魅力なんですよ」
希少な野生動物が多く生息するのは、エサが豊富だから。湿原には虫が多く、虫を食べる小鳥が集まる。その小鳥を狙ってワシが来る。サケやマスの遡上が始まると、ヒグマが山を降りてくる。海鳥やラッコ、アザラシたちが暮らせるのも、栄養豊富な海があるから。そんな食物連鎖、生き物どうしのつながりも、ここにいるとスッと胸に入ってくる。

気高く美しい
シマフクロウの眼差し

今回の旅で、もし可能ならば、シマフクロウをひと目見ることができたらと思っていた。全長70㎝、翼を広げると180㎝を超える世界最大級のフクロウだ。アイヌの人々は、「コタンクルカムイ」と呼び、村の大切な存在として敬意を払ってきたという。かつては北海道全域に広く生息していたが、森林伐採で営巣地が減少したうえ、砂防ダム建設などで主食の魚も減り、数が激減してしまった。今では絶滅危惧種として保護されている。

根室管内は、そんなシマフクロウの貴重な生息地でもある。彼らのすむ森に入り込んだりするのはもってのほか。偶然の出合いを期待するのも、かなり難しいことだ。

そんな中、保護と観察の両立を図る施設があると知った。澤尾さんが連れて行ってくれたのは、羅臼町の民宿「鷲の宿」内にある観察施設「シマフクロウ オブザバトリー」。知床羅臼町観光協会が協力し、川にやってくる野生のシマフクロウを小屋の中から観察・撮影できる設備を整えている。

日没後、シマフクロウの話を観光協会の方から聞きながら、小屋で静かに待つ。来るかもしれないし、来ないかもしれない。いつ来るかもわからない。
「来た!」
急いで川を見ると、シマフクロウが音もなく舞い降りていた。脚をそろえて川に飛び込み、魚をつかんで口へ運ぶ。ほんの数分の出来事だが、その美しく威厳のある姿に胸が震えた。シマフクロウは知能が高く、まるで複雑な人間関係を思わせるような家族ドラマもあるそうだ。彼らが絶えることなく、再び繁栄していくことを願わずにいられない。

短い夏が終わり、秋を迎え、冬になると、根室には流氷がやってくる。その頃には、どんな野生の姿が見られるだろう。この雄大な自然と動物たちに会いに、ぜひまた訪れてみたい。

Data

根室ネイチャーセンター
TEL:0153-26-2550
http://canoecraft.net/naturecenter/

ガイドと一緒に道東の大自然をとことん楽しむ「ガイド1日チャーターツアー」のほか、「カヌーツアー(6月から11月末まで)」「バードウォッチングツアー」「フットパスツアー」など、各種ツアーを実施。カヌー工房でもあり、カヌーやパドルの製作体験もできる。いずれも事前予約が必要。ツアーの内容や料金など、詳しくはwebサイトで。

Nemuro more info.

サンマの水揚げ日本一で、「とろサンマ」と呼ばれるほど脂ののったサンマが楽しめる根室。海産物が豊富だが、B級グルメの宝庫でもある。柔らかい「オランダせんべい」(端谷菓子店)は、やみつきになる食感と味わい。花咲港近くの「ホームランやき」は、もっちりした生地の中に粒あんが入った人気のおやつで、ラーメンと一緒に注文するのがおすすめだ。
今回、宿泊したのは根室市内のゲストハウス「とまや」。オーナーや宿泊客とのアットホームな交流が、根室を一層身近に感じさせてくれる。

ゲストハウス「とまや」
http://www.tomaya-nemuro.com/

photo: Keiko Mizukai text: Reiko Kado

北海道をもっと楽しむ

釧路かに卸売市場 たくよう

創業以来40年以上もの実績と信頼を積み上げてきた「釧路かに卸売り市場 たくよう」。地元で“カニの水族館”と呼ばれるほど大きな水槽から、その場で好きなカニを選び、茹でたてを味わうことができます。カニはもちろんのこと、生ウニや活牡蠣など新鮮な魚介を多数取り揃えており、自宅用に持って帰るもよし、お友達へのお土産にするもよし、大切な方への贈り物にもよし。見て楽しい、食べておいしい「たくよう」で北の海の幸をご堪能あれ。

釧路市大楽毛248-1
0154-57-6680
https://www.rakuten.ne.jp/gold/takuyo/