そのためだけに旅に出る NIPPON ONE THEME TRIP

100軒以上の工房が集う、クラフトの街・糸島へ

~福岡・糸島~

使い心地を追求した美しい形、ひとつずつ異なる表情、やさしい手ざわりなど、手仕事の器や道具には数えきれない魅力がある。さらに、実際に現地を訪ねて、作り手と出会い、その手から直接購入すれば、愛着もひとしおだ。今回、訪ねるのは、福岡市の西部に位置する「糸島」。100軒以上の工房が集うという“クラフトの街”へ。さあ、お気に入りを探しに出かけよう。

豊かな自然に抱かれた
暮らしの中に息づく“ものづくり”

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福岡空港から車を走らせること50分ほど。車窓には、緑豊かな山々や田園風景が広がった。玄界灘に突き出す糸島は、海と山、両方の自然に恵まれた場所。そんな豊かな自然にひかれ木工や陶芸、ガラス、布などの作家が集まり、現在、糸島には100軒以上もの工房やギャラリーが点在している。

海岸沿いを離れしばらく進むと、舗装されていない坂道の角に木の看板が。少し不安になりながら登っていくと、木々に囲まれた三角屋根の可愛らしい建物が姿を現した。ここは、2000年に糸島に移住した林田友香さんが営む「器と暮らしのもの Kurumian」(写真:1~3)。糸島に限らず、全国からセレクトした陶器やグラス、漆器、リネンの服などが並んでいる。
「自ら使ってみて良かったものだけを、扱うようにしています。日々の暮らしが豊かになるものをお届けできたら」と林田さんはほほ笑む。

つづいて、“糸島富士”と呼ばれるなだらかな可也山(かやさん)を眺めながら東へ向かい、「うつわと手仕事の店 研」へ(写真:4~6)。ここは、陶芸家である敦賀研二さんが営むギャラリー。隣接する工房でつくられた敦賀さんの作品はもちろん、奥さまが選んだ全国の作り手の作品もそろう。敦賀さんは高校時代、工芸の授業で陶芸を体験したのをきっかけに、この道に興味を持った。県内の小石原焼の陶房で5年間修業したのち、糸島に工房を構えて14年目になる。
「常に意識しているのは“使いやすさ”。それには、機能性だけではなく、デザインも大切。料理を盛り付けたくなるような、花を活けたくなるような、そんな美しい器を届けていきたい」

敦賀さんは、仲間の作家とともに9年前から「糸島クラフトフェス」をスタート。毎年9月に開催されるこのイベントには、糸島で制作を行う約60の作り手が参加。3日間で、約1万5000人が訪れるという。
「このイベントをきっかけに、作家どうしの輪が広がり、新たに糸島に工房を構える作り手も増えているのが嬉しいですね」
2016年の糸島クラフトフェスは、9月17日、18日、19日に開催予定。またそのころ、ぜひ糸島を訪れたい!

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60以上の糸島の作り手の
作品が集うギャラリー

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糸島の中心部・筑前前原駅の近くに宿泊し、翌日はそこからほど近い古い建物が残る商店街にある「糸島くらし×ここのき」へ(写真:8~12)。

「並んでいるほとんどの作品が、糸島の作家の手から生まれたものなんです」
店内に入ると、店主の野口智美さんがそう教えてくれた。
糸島の杉を生かし、木目を木の葉模様に寄木した「杉の木クラフト」の木皿をはじめ、“しのぎ”による模様が美しい「醇窯(じゅんよう)」のポットやマグカップ。このほか糸島の食材を生かした醤油や塩、焼菓子など、魅力あふれる作品や商品がずらりと並び、思わず興奮してしまう。クラフトと食をあわせると、“67”もの糸島の作り手のものがそろう。さらに、店内の奥には、海外の生産者から直接仕入れた豆でコーヒーを淹れる「Tana Cafe」もある(写真:13)。

中学・高校を糸島で過ごし、その後、福岡市内などで暮らしていた野口さんは、26歳のときに糸島に戻った。そこで木工所に勤める母親や知人から、全国の森と同じように糸島の山々も荒廃していることを聞く。何か自分にできることはないかと考え抜いた結果、「糸島の山を守るためには、地元の木を使うことがいちばんだ」という思いに行きつく。“地元の木の流通”を担って行こうと決意し、2010年に「糸島くらし×ここのき」をオープンした。

「ここのきには、地元の木を使った作品だけではなく、暮らしの道具や食品、雑貨など、この地で生まれた“いいもの”がたくさんあります。地元のものを使うことは、身近な自然に目を向けること、自立した地域をつくることにつながると思うんです。そんな暮らしのスタイルを、ここから発信していきたい」

さらに、スタッフの千々岩哲郎さんが続ける。
「僕たちは新たな作家さんの作品を扱うとき、必ず工房を訪ね、話をうかがうようにしています。もし、気になる作家さんがいたら、会いに行ってみるのがおすすめ。作品に対する思いや作り方についての話を聞くことで、作品に対する愛着がより深まるはずです」
糸島には、工房にギャラリーが併設されているところも多い。その中から2カ所を訪ねることにした。

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作り手の工房を訪ね
直接、その思いにふれる

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最初に向かったのは、目の前に田んぼが広がるロケーションにある革工房「DURAM FACTORY SHOP」(写真:14~17)。店内の手前は、ショップスペース。財布やメガネケース、カメラストラップなどの革小物やステーショナリーが並んでいる。おもしろいのはレジカウンター越しに、工房を見られるところ。機械で革に穴を開けたり、ミシンで縫い付けたり、制作の様子を眺めていると、手をとめてオーナーの中川克彦さんが話しかけてくれた。
「この革は、植物性タンニンでなめしているんですよ。私たちは、環境にやさしいナチュラルな素材を使うこと、丈夫なこと、飽きのこないシンプルなデザインであることを大切にしています」

「ちょっと待ってくださいね」と奥から持ってきてくれたのは、数々の試作品。中川さんは、自分自身で試作品を何年も使いながら改良を重ね、製品化していくという。よく見ると、どの試作品も経年変化により味わいを増している。そんな話を聞くと、店内に並ぶ作品がより愛おしく思えてくるから不思議だ。

最後に訪ねたのは、木工家の酒井航さんのブランド「DOUBLE=DOUBLE FURNITURE」の工房&ショールーム(写真:18~20)。酒井さんは、大きな家具からカトラリーやトレイなどのテーブルウエアまでを手がける。
「カトラリーなどの小物も手がけるのは、日常に取り入れやすいから。好きなものに囲まれた暮らしは、とても豊かです。そんな暮らしを見つける“きっかけ”にしてもらえたらという思いで、ものづくりをしています」

もう一つ、酒井さんが大切にしているのが“使う目線”だ。
「例えばトングは、ミニトマトなどの球状のものもつかみやすいよう、先端の内側を丸く削っています。家具工房での修業時代に学んだ手仕事の技術をいかし、ディテールに至るまで使いやすさを追求しています」
細部に込められた思いを知ることができたのは、実際に作り手に会えたから。作家の手から直接、思いとともに作品を受けとる。そんな喜びを、糸島の旅は教えてくれた。

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Data

糸島くらし×ここのき
福岡県糸島市前原中央3-9-1
TEL:092-321-1020
営業時間 10:00~19:00 火曜定休
http://www.coconoki.com/
JR筑肥線「筑前前原駅」徒歩約9分
木工や陶器、ガラス、布、食品など、67もの糸島の作り手の作品や商品がそろう。ホームページには、「つくり手を訪ねて」という記事を掲載。作品に詰まった思いや、ものづくりに対する姿勢、暮らしの様子などを、伝えることにも力を入れる。「今後は、糸島の木工作家や貯木場と連携し、さらに地元の木の流通に力を入れていきたい」と店主の野口さん。

「器と暮らしのもの Kurumian」 http://www.kurumian.com/
「うつわと手仕事の店 研」 http://kengama.com/
「DURAM FACTORY」 http://www.duram.jp/
「DOUBLE=DOUBLE FURNITURE」 http://www.dd-furniture.jp/
※ショールームの見学は予約が必要。

Iwaizumi more info.

糸島は天然真鯛の水揚げ量日本一で知られている。直売所の「JF糸島 志摩の四季」内にある「志摩の海鮮丼屋」では、真鯛をはじめ糸島で水揚げされた新鮮な魚介類だけをふんだんに盛り付けた海鮮丼を提供。新鮮だからこそのコリコリ、プリプリとした食感や旨みはもちろん、手軽な価格でありながら、満足のいくボリュームも魅力。糸島に住む人からも、愛される海鮮丼だ。(価格/小:650円、中:850円、大:980円)。
「志摩の海鮮丼屋」 https://www.facebook.com/shimanokaisendonya

photo: Kenji Arata text: Masahiro Sugiyama

糸島をもっと楽しむ

博多処 ふくの家

2014年10月に筑前前原駅前にオープンした博多料理のお店「ふくの家」。11時30分から15時がランチ、17時から24時は博多の逸品料理やコース料理を堪能できる居酒屋として利用できる一軒です。ランチのおすすめは、店主が毎日直接仕入れる鮮魚を使った海鮮丼御膳。海鮮丼のほかに8品も御膳にのり、ボリューム満点です。糸島の旅の合間に、大満足なランチをお楽しみください。

福岡県糸島市前原中央2-5-18 廣瀬ビル1F
092-321-2908
https://www.facebook.com/hakata-fukunoya/