Barakan’s Picks バラカンズ ピックス ピーター・バラカンお薦めの音楽

ミュージシャン同士の相性が楽しめる3枚

多彩なゲストによる多彩な曲が醸し出す一体感

今回まず紹介したいのはスナーキー・パピーというバンドです。バンド名は「皮肉な子犬」といった感じですが、ニューヨークを拠点とする数十人の集合体です。他のバンドを掛け持ちするメンバーもいるようで、その都度編成が若干変わるのですが、基本的にインストルメンタルのグループで、レコーディングの時には様々なゲストを迎えます。

最新作「ファミリー・ディナー Vol.2」はニュー・オーリンズで制作されました。音楽教育を通じてニュー・オーリンズの若者たちに地元の文化を伝え、また社会で活動する力を与えようとする音楽財団を支えるための措置だったそうです。
ジャンル的には特定しにくいグループです。どちらかといえば新しいタイプのジャズに近い存在ですが、今回は実に多岐にわたるゲスト陣がフィーチャーされています。冒頭の曲では、現代的な女性シンガー・ソングライター、ベッカ・スティーヴィンズとスウェーデンのフォーク・トリオのヴェーセンが共演。続いての曲にはペルーのアフリカ系女性歌手スサナ・バカとファンキーなジャズ・ギタリストのチャーリー・ハンターというやや意外な組み合わせが登場。

スナーキー・パピーは普通のレコーディング・スタジオではなく、観客も入るようなもっと広いスペースに録音機材を持ち込み、一発ライヴ録音を得意としています。もちろんそのためには相当のリハーサルが必要とされますが、オーヴァダビングをせず、ライヴの緊張感が保てます。いつも同時に収録している映像をYouTubeで観ると、お客さんもミュージシャンも全員ヘッドフォーンをかぶっている一風変わった印象があります。

今回のアルバムの最後にNOLA Internationalというニュー・オーリンズの大勢のユニットとの共演があり、リード・ヴォーカルのナイジェル・ホールは違いの分かる人の間では最近重宝されている素晴らしい歌手です。彼が歌っているのは、日本でもファンが多いジョン・クリアリーの曲「Brother, I’m Hungry」、そのバックをつけるのはニュー・オーリンズの錚々たるメンバーです。

曲ごとに雰囲気が変わるアルバムですが、通して聞いても不思議と一体感があり、大変魅力的な作品です。

大物が70歳をこえてじっくり作り上げた一枚

今年に入って次々と大物ミュージシャンが他界していることが、たびたび話題になっています。60年代のスターたちがそれだけ年をとったという単純な面もあるでしょうが、明らかにピークを過ぎた人もいれば、逆に年と共に味わい深くなっていく人もいます。今年で74歳になったグレアム・ナッシュが14年ぶりに新作アルバムを出しました。1年前の誕生日を境に彼は自分のそれまでの人生を振り返り、自分が本当に幸せかどうかを客観的に反省した時、色々と見えてくるものがあったと言います。長年連れ添っていた奥さんと別れ、70代では驚く展開となりましたが、音楽的にはやっていることが変わらないものの、新作「This Path Tonight」は説得力のあるアルバムです。

実はこのアルバムは、数年前からグレアムの活動もCS&N(クロズビー、スティルズ&ナッシュ)の活動もギターで支えているシェイン・フォンテインとの共同作業で作り上げたものです。曲はグレアムが作詞し、その詞にシェインが曲を付けるプロセスは速いペースで進みましたが、グレアムとしては急いでアルバムを出すよりも、じっくりと仕上げて、自分が100%納得できる内容にしたかったと語ってくれました。それは去年CS&Nで来日した際に、ぼくのラジオ番組のゲストに来てくれた時の話で、一緒にスタジオに来たシェイン・フォンテインがぼくの弟であることも付け加えた方がいいでしょう。じっくりやりたいのは、これから先果たして他のレコードを作ることがあるかどうか分からないから、とあっさり話していました。歌詞では自分の晩年の姿を直視しつつ、世の中で起きていること、亡くなった友人のリーヴォン・ヘルムに捧げた曲など、聴いていてしっくりくるシンプルな構成の曲が多いです。

このアルバムをグレアムとシェインの二人でプロデュースする予定でしたが、レコーディングが始まるとグレアムはシェインに任せたいと決意。グレアムとはこれまで演奏したことがないミュージシャンが中心ですが、今のロス・アンジェレスでぴかいちのドラマー、ジェイ・ベルローズをはじめ、出しゃばることなく見事にグレアムの歌をサポートしています。個人的には、これまでの彼のソロ・アルバムの中でぼくはいちばん気に入っています。

やさしく聴き手を包み込むヴォーカルの魅力

ここ数年で出会った歌手の中で最も強い印象を受けたのはグレゴリー・ポーターです。今年で45歳になる彼は、子どものころから教会でゴスペルを歌ったり、30代にはブロードウェイでブルーズを題材としたミュージカルに出演していましたが、インディペンデント・レーベルでデビュー・アルバムを出したのは2010年のことでした。2014年にブルー・ノート・レーベルと契約し、3作目のアルバム「Liquid Spirit」はその年のグラミー賞のジャズ・ヴォーカル部門で受賞しました。

グレゴリー・ポーターは単純にジャズ歌手と言える人ではありません。技巧に走ることはないし、繊細な雰囲気を持ったシンガー・ソングライターでもありますし、曲によっては例えばかつてのビル・ウィザーズ辺りを連想することもあります。声量は十分ありますが、声を張ることはあまりなく、完璧なコントロールでやさしく聴き手を包み込む感じがあります。本当に、歌がうまい!と(静かに)唸ってしまう人です。

レコーディングでもいつもツアーなどで一緒に活動しているミュージシャンを起用する、わりと珍しい歌手です。プロデューサーは彼が師と仰いでいるカマウ・ケンヤッタです。ケンヤッタ氏がカリフォルニア大学サン・ディエゴ校でジャズの講師をしていた時の出会いで、当時のグレゴリーは管楽器のラインをアドリブで歌ったりして、彼にぴったり合うレパートリーがないと感じたそうです。ケンヤッタ氏の提案で二人が協力して曲作りを始めたら親密な関係になり、その後二人の協力体制が続いています。その相性の良さはこのアルバムからも滲み出ています。繰り返し何度も聴きたくなる作品です。

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。5月26日に最新刊『ロックの英詞を読む—世界を変える歌』(集英社インターナショナル)が発売。

photo: Tsutomu Sakihama