Barakan’s Picks バラカンズ ピックス ピーター・バラカンお薦めの音楽

じっくり味わってほしい、聞き応えある3枚

自信作のコンピレイション・アルバム

今回はまず自分が選曲したコンピレイションのCDを紹介させてください。どんなに売れたとしても印税は一切いただけないので利益相反の問題はありませんが、なかなかの自信作なので一人でも多くの方に知って欲しいものです。
タイトルは「Bobby’s Record Shop」です。ボビーというのはボビー・ロビンスン、ニューヨークのハーレムで1940年代後半から何十年にもわたって(2011年に93歳で他界しました)レコード店を運営しつつ、小さなレコード会社もいくつも興したブラック・ミュージック界の名物男でした。このCDでは、50年代から60年代の初頭にかけて、彼のいくつかのレーベルでシングル盤として発表されたR&Bやブルーズを30曲選びました。

中には大ヒット曲もあります。例えばバスター・ブラウンの「ファニー・メイ」やウィルバート・ハリスンの「カンザス・シティ」は当時のR&Bを語る上で外せない重要な曲です。また60年代後半にイギリスで起きたブルーズ・ブームのころ、どのバンドも取り上げていた「ダスト・マイ・ブルーム」は、戦前にロバート・ジョンスンが歌っていたのはオリジナルですが、それを凄まじい切れ味のエレクトリック・ギターで再現したエルモア・ジェイムズのヴァージョンは不可欠です。エルモアの名曲を6曲収録しました。ニュー・オーリンズを代表するR&B歌手リー・ドーシーの初期のヒット「ヤー・ヤー」(ジョン・レノンのヴァージョンも有名)を含む5曲も入っています。このCDを組むまでぼくも知らなかった渋い曲も色々ありますが、全体的に古典的なブラック・ミュージック満載です。

さまざまな音楽要素が混在する独自性

30曲のうち女性は グラディス・ナイトのデビュー曲を含む2曲だけですからここでバランスをとりましょう。次に紹介するのはルシンダ・ウィリアムズの新作「The Ghosts of Highway 20」です。20号線というのは彼女の出身地ルイジアナ州の北部を東西に横切るハイウェイのことですが、この2枚組のアルバムの14曲(長めの曲が多いです)に登場するのはそのハイウェイを行き交う、色々な意味で恵まれない人々です。ルシンダは現在63歳ですが、デビューから40年ほど経つ人で、ブルーズとカントリーとロックの要素が独自の、時々パンクに近いアティチュードで混在します。前回のコラムで紹介したチャールズ・ロイドのアルバムでもフィーチャーされている2人のギタリスト、ビル・フリゼルとグレッグ・リースがこのアルバムでも全面的にニュアンスに富んだ美しい演奏を展開しています。派手なギター・ソロはないものの、彼らはルシンダの音楽を支えているだけでなく、更に持ち上げているといっていいと思います。ゆったりしたテンポの曲が多いアルバムですが、じっくり聞けば十分に聞き応えがあります。

一度で魅了された表現力

最後に、ぼくはこれまで知らなかった女性歌手Christine Salemという人です。彼女はマダガスカルの東の沖合に浮かぶレユニオン島の出身です。この島は行政的に言うとフランスの一つの県に当たります。レユニオン島にはMaloyaという独特の音楽文化があり、8分の6拍子のダンス・ミュージックで、一種のトランス音楽といっていいものですが、このクリスティーヌ・サレムはそのマロヤをベースに持っていながらも、ここではアメリカのブラック・ミュージックの影響もかなり強く受けた、もう少しロックにも近い音楽をやっています。低い歌声はぼくには男に聞こえてしまいますが、その表現力は見事で、アルバム・タイトルの「あきらめないで」は音からもはっきりと感じられるものです。他に聞いたことがない雰囲気で、彼女についてほとんど知りません(かなりのヴェテランのようです)が、このアルバムを一度聞いただけですぐにファンになりました。今どきの保守的な音楽業界でこういったユニークな音楽を国内で流通する会社がまだあると思うとほっとします。

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。

photo: Tsutomu Sakihama