Barakan’s Picks バラカンズ ピックス ピーター・バラカンお薦めの音楽

繊細なギターが鍵を握る3枚

早くも2016年のベストアルバム候補に

今回ご紹介するアルバムはどれも何らかの形でギタリストが鍵を握っています。

まず、サックス/フルート奏者のチャールズ・ロイド。彼は1960年代から活動してきたヴェテランで、今は70代後半ですが、ここ数年一緒にやっているベーシストとドラマーは彼の年齢の半分ほどの実力者で、特にスローの曲での繊細な演奏が素晴らしいです。最新作「I Long To See You」では更に2人のギタリスト、ビル・フリゼルとグレッグ・リースが参加しています。基本的にジャズ畑でやってきたビル・フリゼルは51年生まれ(ぼくと同い年)で、60年代のロックやフォークなどをリアル・タイムで体験しているだけあって、彼のジャズにはアメリカのあらゆるルーツ・ミュージックの影響が濃厚に感じられます。少し揺れる独特のトーンにはややエクセントリックなニュアンスもありますが、根本には極めて繊細な人間性が滲み出ています。グレッグ・リースはスティール・ギターの類いが得意で、スタジオ・ミュージシャンとしての仕事が無数にある名人ですが、ビル・フリゼルとの相性も良く、最近ボニー・レイトやルシンダ・ウィリアムズなどのアルバムでこの二人の名前が一緒にクレジットされることがありました。

このアルバムの冒頭の曲はボブ・ディランの「戦争の親玉」を取り上げています。元々フォークのメロディに新たな歌詞をつけたものですが、そういったフォーク・ソングや賛美歌などのよく知られた古いメロディをしっとりと美しく、しかもジャズ・ミュージシャンならではの微妙な緊張感で聞かせます。リーダーのチャールズ・ロイドは今更余計な自己主張をする必要もなく、二人のギタリストに伸び伸びと演奏する空間を与えています。またヴォーカルをフィーチャーした曲が2曲あって、60年代のフォーク・ソングを歌うウィリー・ネルスン、そして「ユー・アー・ソー・ビューティフル」をゆったりと気だるく解釈するノーラ・ジョーンズ、実にぴったりの人選です。早くも今年の年間ベスト候補です。

個性派歌手が結集した素晴らしいトリビュート

次は1920年代の終盤、ほんのつかの間テクサス州を中心に活動したスライド・ギタリスト兼ゴスペル・シンガーのブラインド・ウィリー・ジョンスンに対するトリビュート・アルバム「God Don’t Never Change」。宇宙探査機Voyagerに搭載されたアナログ・レコードには人類の代表的な表現が収録されています。その一つがこのブラインド・ウィリー・ジョンスンの「Dark Was The Night, Cold Was The Ground」で、多くの人間が体験してきた寒い中の野宿というテーマが選ばれた一つの理由ですが、キーンとなるスライド・ギターに合わさるブラインド・ウィリーの言葉のない唸り声は他に類のない音楽です。映画「パリ・テクサス」の主題曲として有名になったライ・クーダーの演奏も基本的に同じ曲です。

クラウドファンディングで制作が可能になったこのアルバムにはトム・ウェイツ、ルシンダ・ウィリアムズ、リキ・リー・ジョーンズ、デレク・トラックスとスーザン・テデスキ、シネイド・オーコナーなど、個性派の歌手たちが集まり、「ソウル・オヴ・ア・マン」、「ジョン・ザ・レヴェレイター」、「トラブル・スーン・ビー・オーヴァー」など、ブラインド・ウィリー・ジョンスンが凄まじいパワーで聞かせた名曲が久々に甦ってきます。このトリビュートも素晴らしいですが、これを聴いてからぜひオリジナルも続けて聴いていただきたいです。

天才的なスライド・ギターがロックに黄金期を呼ぶ

最後に、前述のデレク・トラックスとスーザン・テデスキ夫妻率いるテデスキ・トラックス・バンドの新作「Let Me Get By」です。今の時代には珍しく、70年代初頭のロックの黄金時代の音楽の熱いノリを維持、再現しようと活動している比較的若手(デレクは36歳、スーザンは45歳)の大所帯バンドです。3月には来日公演も行いました。ホーン・セクション3人、バック・ヴォーカル3人、ドラマー2人を含む12人編成ですが、スーザンのシャウト気味のブルージーなリード・ヴォーカル、そしてデレクの天才的なスライド・ギターが何といってもこのバンドのトレードマークです。デレクもスーザンも長いこと別々に活動してから、TTBの誕生から5年余りが経過しましたが、若干のメンバーの入れ替わりもあってさらに磨きがかかった強力なユニットになっています。アメリカの全てのルーツ・ミュージック、更にインドのメロディなどを巧みにブレンドした彼らの音楽こそがロックの次の黄金時代をもたらすことができるか。そう願いたいです。

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。

photo: Tsutomu Sakihama