Barakan’s Picks バラカンズ ピックス ピーター・バラカンお薦めの音楽

個性溢れるジャズ・ヴォーカルを楽しむ3枚

さらりと歌い上げる新しいタイプのジャズ・シンガー

お元気ですか、ピーター・バラカンです。今回はいろんなタイプのジャズ・ヴォーカルを楽しませてくれるアルバムを3枚、ご紹介します。

まずグレチェン・パーラートという、ロサンジェレス出身の、ちょっと新しいタイプの女性のジャズ歌手です。決して男っぽいってわけじゃないけど、ことさら自分が女性であることを強調しないで、割とさらっとした感じの歌い方をする人。セローニアス・マンク・インスティテュートのコンテストで優勝してデビューし、これまでに3枚アルバムを出しています。

今回ここで取り上げる『ザ・グレチェン・パーラート・シュプリーム・コレクション』は、音楽評論家の渡辺亨さんが、いろんなアルバムから集めた曲を1枚のコンビレイションにした日本独自企画で、今のジャズ・シーンで話題になっている人たちが参加しています。サックス奏者のデイナ・スティーヴンズとか、ブラッド・メルダウと2人でアルバムを出しているマーク・ジュリアナというドラマーとか。彼は、最初プログラミングしているんじゃないかと思ったぐらいのドラムのたたき方をする人です。

曲も幅広くいろいろなタイプのものが入っていて、キャロル・キングの『ユー・ガット・ア・フレンド』も、ジェシー・フィッシャー・アット・ソウルサイクルという、僕は知らなかった人たちと演奏しています。ヴォーカルは好きでも、その周辺のミュージシャンの音楽は必ずしも聴いているとはかぎらないので、「あ、こういう人たちもいるんだ」って初めて知ることができるのも、こういうコンピレイションならではの便利さというか、楽しみですね。他にもマイケル・ジャクスンやスティーヴィ・ワンダー、アントニオ・カルロス・ジョビンのカヴァーなども入っています。

ブラジル発信のユニークなコンピレイション

次はソンゼイラの『ブラジル・バン・バン・バン』。これはジャイルズ・ピータースンという、イギリスのDJがプロデュースしています。彼は80年代から世界的に活躍していますけど、すごい勉強家で、コレクターで、いろんな音楽を貪欲に聴いている人なんです。その彼が、2014年のブラジルのワールドカップの盛り上げ企画として、このコンビレイションの企画を持ちかけられました。彼もブラジルの音楽が好きだから、リオ・デ・ジャネイロに行って、自分の好きなミュージシャンを集めてユニットを作ったのが、このソンゼイラです。

このアルバムを作っている様子をヴィデオ・カメラ1台で記録だけ撮っていて、後からそれが結果的にドキュメンタリー映画にもなりましたが、とても面白い作品でした。

ミュージシャンのほとんどは、現在リオを拠点にしている人たちです。たとえば、ブラジルの音楽に詳しい人だったらよく知っている、エルザ・ソアレスという女性。今では相当のおばあさんで、もう体中整形しているらしいし、過去にもいろいろスキャンダルがあった人みたいだけど、とにかく歌はすごい。晩年のビリー・ホリデイをちょっと思い出すような、低い、ドスの利いた感じの声でね。『アクアレラ・ド・ブラジル』という有名な曲を、テンポを半分ぐらいに落として、哀愁のあるような編曲で歌っていますが、映画を見ると、スタジオのミュージシャンもほとんど涙しているんです。それぐらい、本当に衝撃的な、その人の人生経験が全部にじみ出るような歌です。

日本盤には、ボーナス・トラックとして『ザ・プラム・ブロッサム』という曲が入っています。ユセフ・ラティーフというサックス/フルート奏者の素晴らしい曲です。もう一人、エマニュエル・アラウージョという若い女性もボーナス・トラック含め3曲フィーチャーされていて、これも良かった。女優で歌手もしているという人だそうですが、なかなかの美人。こういうルックスだったら歌はあまりうまくないかも、と思ったら、それがさらっとしてるんだけど上手なんです。

映画の中で、「ジャイルズのような部外者がブラジルに来てやったのでなければ、こういうレコードはできないだろう」と語っているミュージシャンがいたけれど、自分が好きなミュージシャンたちを、他の国の観点から組み合わせると、やっぱり面白くなる。キューバの『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』もそうでしたね。

あの名作がCD+DVDで楽しめる

最後の一枚は、ついこの前再発された『真夏の夜のジャズ』という伝説のドキュメンタリー映画。これは1958年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルを撮った、あまりにも有名な映画なんですが、音楽だけじゃなくて映像そのものもとても美しいです。監督が写真家のバート・スターンとアラム・A・アヴァキアン。スターンは『ヴォーグ』誌のファッション・カメラマン兼アート・ディレクターだった人で、アヴァキアンはジャズ・ミュージシャンを撮影するカメラマンで、映画編集者でもあった人です。

ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルは、ニューポートっていうロードアイランド州のリゾート地で開催されていたもので、観客はほとんど白人の、割と余裕のありそうな感じの人たちです。50年代で、カウンター・カルチャー以前の時代なんだけど、モダン・ジャズがかなり面白くなってきていたという頃。意外なことに、モダン・ジャズバリバリのセローニアス・マンク、サニー・スティット、ジェリー・マリガンなどに混じって、ブルージーなダイナ・ワシントンや、チャック・ベリーまで登場します。

チャック・ベリーは多分、当時のジャズ好きには全然理解されてなくて、ディクシーランド・ジャズの人たちと『スウィート・リトル・シックスティーン』を歌っている場面なんて、ちょっとお客さんが白けているんですよね。一方でルイ・アームストロングは受けまくっていて、それはそれで時代の背景として面白いところです。

最後に出てくるマヘイリア・ジャクスンのゴスペルは、もう泣いちゃう。大雨が降る野外で、マヘイリアが、多分その時の気分で『ディドント・イット・レイン』というゴスペルの有名な曲を歌っているんですが、これは土砂降りのことを歌った曲なんです。土砂降りの中で土砂降りの歌を歌ってるマヘイリアが、本当に素晴らしい。

それと、チコ・ハミルトンのユニットにチェロ奏者が加わっているんだけど、彼が楽屋でバッハの曲を弾いてるシーンがあってね。暗い楽屋で、たばこの煙が漂う中で、彼が一人座ってチェロを弾いている。それがすごくかっこいいんです。サウンドトラックはサウンドトラックで名盤ですが、今回はDVDとCDの2枚組で、しかもそんなに高くないので、古典的なコンサート映画として、ぜひぜひ観ていただきたいです。

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。

photo: Tsutomu Sakihama