Barakan’s Picks バラカンズ ピックス ピーター・バラカンお薦めの音楽

僕が今、聴いてもらいたい
女性ミュージシャン vol.2

本当の意味でのアーティスト

明けましておめでとうございます。ピーター・バラカンです。今年も皆さんにぜひ聴いていただきたい音楽をどんどんご紹介しますので、よろしくお願いします。

さて、今回は前回に引き続き、女性ミュージシャンのアルバムを3枚取り上げます。まず1枚目は、ギリアン・ウェルチのアルバム『Nashville Obsolete』です。タイトルの意味は「廃れたナッシュヴィル」ですから、ちょっと皮肉が入っているかな。アルバム自体は、相棒のユニット、デイヴィッド・ローリングズ・マシーンという名義になっていますけど、曲は一緒に作っているし、二人で歌っているし、彼女のレコードと言っても変わりないです。

この人たちも本当に独自の世界を持ったミュージシャンで、平たく言えばルーツ・ミュージックということになりますが、彼女の歌を聴いていると、どのぐらい昔のものか、分からなくなるんです。初めてザ・バンドを聴いた時と似たような感覚があります。

ジャケット写真を見ても、「これ、もしかして100年ぐらい前の写真?」っていう雰囲気をわざと作っている。それが、いかにもこの二人の音楽を表していて、決して脚光を浴びるようなことはしないで、自分のスタイルで淡々と地道に歌う、ギターを弾く、それだけの人たちです。自分たちのレーベルを持っていて、曲も7分とか10分という長いものがあったりして、ラジオでかけやすいような短い曲を作っているわけでもないんです。決して無理をせず、自分たちのやっていることを誰かが発見してくれるまで待つという、僕が言う本当のアーティストとしての活動をやっています。

ギリアン・ウェルチには、素朴だけど素晴らしい、「静かな表現力」があります。また、彼女の歌に寄り添うようなデイヴィッド・ローリングズのギターも、決してみせびらかさないけれど実はすごいテクニックがあって、これもまた、「静かな表現力」ですね。もう完璧すぎる伴奏です。 気付く人は気付く、気付かない人は全く気付かない。でも、少しでも知ってほしいタイプのアーティストですね。

初めて聴いた時に印象に残る曲

2枚目のマイア・シャープは、僕も全く知らなかった人です。知り合いに紹介されてYouTubeで聴いたのが、このアルバム1曲目、「Nothing But The Radio」、“ラジオ以外何もない”でした。

この曲は恋人に対して歌っているものなんですけど、ちょっと引っ掛けたタイトルで、「Nothing on」っていうのは「裸」っていう意味なんです。それに「ラジオをつける」という意味の「Switch on」を掛けて、身につけているのはラジオだけだと。ラジオがかかっていて音楽を聴いているんだけど、裸状態になっているっていう、ちょっと面白い言葉の掛け方です。

彼女はちょっと骨のある、ロック寄りのシンガー・ソングライターで、ややタフな感じ。すでに5〜6枚のアルバムを出していて、キャロル・キングが絶賛していたという話もあるようです。曲は、自作だけではなく、他のミュージシャンとの共作も多くて、一曲、元ユーリズミックスのデイヴ・スチュワートと一緒に制作している曲もあります。

このアルバムは、初めて聴いた時に印象に残る曲が多く、ちょっと70年代っぽいというか、ちゃんと曲になっています。変な言い方に思えるかもしれません。昔はそれが当たり前でしたが、最近の音楽を聴いているとすぐ印象に残るメロディが非常に少なく、時々曲を作る人の目指すものが本質的に変わった気がします。曲よりリズムや編曲で聴かせるものが多くて、聴いている時はいいんだけれど、終わったら「え、どういう曲だったっけ」というのが多い。そんな中、彼女の曲は印象に残りました。

70年代アメリカ音楽の名盤

40年前のやや渋い名盤の復刻CD。「真夜中のオアシス」が入ったデビュー・アルバムの後に出た、マリア・マルダーの2作目のアルバムで、1974年に発表された素晴らしいレコードです。プロデューサーはデビュー・アルバムと同じジョー・ボイドとレニー・ワロンカーで、ミュージシャンはエイモス・ギャレットやドクター・ジョン、ポール・バターフィールドなど、僕の好みのミュージシャンばかりです。

やっている曲がまたとてもいいんです。その昔、ペギー・リーで有名になった「I'm A Woman」という曲を、彼女はかなりシャッフル・ビートのブルーズでやっているんですが、ホーンも入っていて、ポール・バターフィールドのハーモニカがすごく効いていて、かっこいいんですね。アーシーで、大人の女、しかも曲線がちゃんとあるような女の魅力があって、マリア・マルダーにはもうぴったりという曲です。

アルバムのタイトルは「ドーナツ屋さんのウエイトレス」という意味ですけど、ジャケットはすごく印象的です。決して美人っていうんじゃないけど、非常に存在感がある。素晴らしい写真だなと思って見てみたら、あのジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻の写真の有名な写真家、アニー・リーボヴィッツが撮っていました。

このアルバムは間違いなく70年代のアメリカン音楽の名盤の一つですが、僕は「何の音楽」というジャンルはできるだけ排除したいと思っているんです。ジャンルにかかわらず、聴いてみたら良い音楽は当然ある。マリア・マルダー自身も、いろんなルーツ・ミュージックを深く聴き込んで、独自の音楽を作り上げています。ぜひ聴いてみてください。

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。

photo: Tsutomu Sakihama 撮影協力: InterFM