Barakan’s Picks バラカンズ ピックス ピーター・バラカンお薦めの音楽

僕が今、聴いてもらいたい
女性ミュージシャン vol.1

年間ベストテン間違いなし

ピーター・バラカンです。今回は、僕が今ぜひ聴いてもらいたい女性ミュージシャンのアルバムを3枚、ご紹介します。

まず、グラミー賞のベスト・トラディショナル・フォーク・アルバムを受賞したこともある「キャロライナ・チョコレート・ドロップス」という三人組グループの紅一点、リアノン・ギデンズの初めてのソロアルバム『Tomorrow Is My Turn』です。エルヴィス・コステロや矢野顕子のプロデューサーとしても知られるT・ボーン・バーネットが彼女のことをすごく気に入って、「あなたは絶対にソロアルバムを作るべきだ」と言って、彼が自らプロデュースしました。

リアノン・ギデンズはバンジョーやギターも弾きますが、本作では歌に専念して、素晴らしい歌声を聴かせています。このアルバムでは自作は1曲のみで、ドリー・パートンやオデッタ、ジョーン・バエズなど、過去の偉大な女性歌手たちの楽曲を取り上げているのですが、彼女のルーツ・ミュージックであるフォークやブルーズをはじめ、シャンソンやカントリー、ゴスペルまで、過去の歌のよさを踏襲した上で、自分の歌をしっかり歌っています。どの曲もジャンルをあまり感じさせず、すべて彼女の雰囲気になっている。プロデューサーのT・ボーン・バーネットも多分それを意識していたと思うし、しっかりルーツ・ミュージックの伝統の上に立っているという感じがあります。僕の年間ベストテンに間違いなく入るアルバムです。

誰もが本当に知るべき歌手の一人

続いては、ニーナ・シモンのベスト盤、『The Essential Nina Simone』です。ニーナ・シモンは、亡くなって10年ぐらいたちますけど、大ヒット曲があった人ではない。けれども、ものすごい実力者で、他のミュージシャンに対する影響力がこれだけ大きかったのかと、今となって気付くことが多いです。アリーサ・フランクリンの歌で「Young, Gifted And Black」のオリジナルが彼女だとか、彼女の作曲ではないけれど、アニマルズの「悲しき願い」は彼女のヴァージョンをアニマルズが元歌にしているとか。最近でも、デレク・トラックス・バンドの「I Wish I Knew(How It Would Feel To Be Free)」という僕の大好きな曲が、やっぱりニーナ・シモンのヴァージョンが基になっていました。何回も何回も、そういうことが出てくるミュージシャンです。

僕がニーナ・シモンを知ったのは、1969年、ちょうど僕が高校3年生でした。ミュージカル『Hair』の挿入曲をカヴァーした曲が、イギリスのヒットチャートでかなり上がって、ラジオでしょっちゅうかかっていたんです。実はピアノもすごいんですね、この人。子どもの時にクラシックピアニストを目指していたんですが、結局、当時の人種差別のためになれなかった。彼女はそのことでかなり挫折して、公民権運動の時に、「ミュージシャン」と言うべきか「活動家」と言うべきか、というほど深くのめり込んで、自分のアーティストとしての評判を落としてしまったぐらいでした。とにかく妥協しない人なんです。もうちょっと自分のキャリアを考えたほうがよかったんじゃないかと、ちょっと悩んでしまうぐらいですが、でも、素晴らしい音楽をたくさん残した人です。

ニーナ・シモンは、ある意味、ひと世代、ふた世代前のリアノン・キデンズのような存在なんです。彼女にとってジャンルなんてどうでもいい。自分が「この歌詞は私歌える」と思ったら何でも歌うわけです。白人の歌も歌うし、黒人の歌も歌うし、自分で作曲することもある。ジョージ・ハリスンの「Here Comes the Sun」を歌ったり、ボブ・ディランの「Just Like A Woman」を歌ったり、ビリー・ホリデイで有名な「奇妙な果実」を歌ったり。このベスト盤だけでも、そういう曲が次々と出てきます。80年代には、なんとホール&オーツの「Rich Girl」なんかも歌っています。これはちょっと意外でした。

ニーナ・シモンは、本当に誰でも知るべき歌手ですね。ポピュラー音楽の歴史の中で、ものすごく重要な役割を果たした人ですから。決してこれを宿題として聴けと言っているんじゃなくて、音楽が素晴らしいから聴いてほしいと、本当に思います。

文句なく楽しく聴けるカヴァー・アルバム

最後の1枚は、1956年生まれでグラミー賞も何度か受賞している実力派シンガー・ソングライター、ショーン・コルヴィンの『Uncovered』というアルバムです。シンガー・ソングライターとして知られているんだけど、最初は小さなコーヒー・ショップとかバーとか、そういうところでばかり長年歌っていたそうです。ようやく88年にレコード契約ができてから曲を作り始めたけれど、94年に一度『Cover Girl』という、自分が売れない時代に歌っていたような曲を特集したアルバムを出しました。それはもう21年前で、久々にその時と同じスチュワート・スミスというプロデューサーと一緒に、再びカヴァーのアルバムを作ることにした。それがこのアルバムです。

有名な曲もそれほどでもないものもカヴァーしていますが、選曲がなかなかよくて、特に僕はトム・ウェイツの「Hold On」という曲がすごく好きですね。その他にも、ブルース・スプリングスティーンとか、ポール・サイモンとか、スティーヴィー・ワンダーとか。決してロックするような感じの人ではなく、上品な、しっかりと自分の雰囲気を持ったシンガー・ソングライターです。やや端正と言うと言い過ぎかな。とにかく、理屈抜きで楽しく聴けるアルバムですね。その時代の音楽の好きな人は、「久々に聴くね。そうか、この声で聴くとまたこの曲いいよな」っていう楽しみ方ができるアルバムです。

では、次回もまた、女性ミュージシャンのアルバムをご紹介します。お楽しみに。

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。

photo: Tsutomu Sakihama 撮影協力: InterFM