Barakan’s Picks バラカンズ ピックス ピーター・バラカンお薦めの音楽

リマスター、復刻など70年代と80年代の名盤から

超実力派バンド「Full Moon」唯一のアルバムを聴く

いよいよ今回でこのコラムが最終回を迎えました。あっという間の1年でしたね。
今回はちょっと古い作品の復刻盤などを紹介します。まずはフル・ムーンという超実力派バンドによる知られざる名盤『Full Moon』です。

これは1972年に発表されたアルバムで、このメンバーでは唯一の作品となりました。メンバーのほとんどが後期のバターフィールド・ブルーズ・バンドの卒業生で、ギターはバジー・フィートン、キーボードはニール・ラースン、ベースはフレディ・ベックマイヤー、ドラムズはフィリップ・ウイルスン、そしてサックスとフルートはジーン・ディンウィディです。この5人で演奏するのはブルーズと言うより、ブルーズの影響もある、より洗練されたスタイルの音楽です。白人と黒人の混合ユニットらしく、リズム的にもメロディ的にも充実した内容の、ソウルもジャズもポップもごく自然に混ざった、当時として画期的なレコードです。

商業的にはほとんど気づかれずに終わったのが残念ですが、その後何度か復刻され、LPには収録されていなかったボーナス・トラックも追加されています。今回は、期間限定で渋谷のタワーレコードの中で活動を再開中の伝説のレコード・ショップ「パイド・パイパー・ハウスの店主・長門芳郎氏の企画で、高橋健太郎氏がリマスターした形になっています。

若くして逝った「リトル・フィート」のエッセンスを聴く

次はロウェル・ジョージの唯一のソロ・アルバム『Thanks, I'll Eat It Here』(いえ、店内でいただきます、といったニュアンスで、ジャケットの絵を見ればちょっと笑えます)です。

ロウェル・ジョージは個人的に70年代の最も好きなバンドだったリトル・フィートのリーダーで、ヴォーカリストとしてもソングライターとしても、またスライド・ギタリストとしても独自のサウンドを確立したミュージシャンでした。さまざまなジャンルの音楽を消化した彼の特有のファンキーなノリは、多くのミュージシャンに計り知れない影響を与えたものです。残念なことにドラッグの使いすぎで不調の時期もあり、最終的にリトル・フィートを離れてこのソロ作を出しましたが、1979年の発売直後のツアー中に心臓発作のため、34歳の若さで惜しくも他界しました。

自作の他にアラン・トゥーサントや、まだ無名だったリキ・リー・ジョーンズの曲、そしてアン・ピーブルズのヒットで知られる「アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン」なども歌っています。肩の力が抜けたリラックスしたグルーヴが素晴らしいアルバムです。先日復刻されたこの安価なCDはお薦めです。

カントリーの枠にとどまらない洒落た歌声を聴く

最後に、発売されるのは初めてですが、1988年にラジオ放送のためにライヴ収録されたライル・ラヴェットの2枚組『The Waltzing Fool』です。テクサス州オスティンを拠点とする彼はそれまでに2枚のアルバムをカントリー寄りのシンガー・ソングライターとして発表していましたが、この演奏の翌年にLyle Lovett & His Large Bandという大編成のグループによる画期的なアルバムを出します。

そのために作曲した数曲も含むこの作品には前のアルバムの曲も当然収録されていますが、それが全部Large Band用に再編曲されたヴァージョンになっています。Large Bandはジャズによくある、いわゆるビッグ・バンドとは異なり、もっとジャンル的に特定しにくい雰囲気を持っています。またさりげなくしゃれた歌い方をするライルの曲も、決してカントリーという狭い枠の中で語れるものではなく、ロック、フォーク、ソウル、ジャズの要素も随所に感じられます。

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。5月26日に最新刊『ロックの英詞を読む-世界を変える歌』(集英社インターナショナル)が発売。

photo: Tsutomu Sakihama