Barakan’s Picks バラカンズ ピックス ピーター・バラカンお薦めの音楽

経てきた人生が奏でる音楽3題

75歳を迎えたフォークの女王と仲間たち

正直言ってジョーン・バエズの音楽を聴くのはそうとう久しぶりでした。フォーク・ミュージックを聴き始めたまだ中学生のころに彼女のシングル盤やEP盤を少し持っていたものの、ボブ・ディランがロックし出したら彼女のきれいなソプラノ声が途端に時代遅れに聞こえてしまったのです。

しかし、それから半世紀も経ち、ジョーン・バエズは75歳の誕生日を迎えることになり、それを祝うコンサートが2016年1月27日にニューヨークのビーコン・シアターで催されました。そのコンサートに集まったゲストの顔ぶれはさすがに60年代初頭の「フォークの女王」の影響ぶりを物語るものです。彼女と同世代ではデイヴィッド・クロズビー、メイヴィス・ステイプルズ、ポール・サイモン、もう少し下の年齢と言うとエミルー・ハリス、ジャクスン・ブラウン、リチャード・トンプスン、メアリー・チェイピン・カーペンター、さらに若い世代ではインディゴ・ガールズやデイミアン・ライスという錚々たるものです。

紹介するのはそのコンサートの模様を収めたライヴCDですが、ジョーン自身の声がずいぶん低くなっています。個人的にはこちらの方が(少なくとも今は)聴きやすく感じますが、歌の巧さは変わりません。曲目はトラディショナルなものからウディ・ガスリや、言うまでもなくボブ・ディラン(3曲も、彼のことをちょっといじりながらも)もありますが、スティーヴン・フォスターからドノヴァン、ザ・バンド、そしてゲストたちのオリジナル曲も、2枚組のCDで21曲を一気に聴きたくなるような構成のコンサートです。

一緒に付いているDVDはこの原稿を書く時点ではまだ観る時間がなく困っています! 伝説のフォーク・シンガーとはいえ、年齢によって歌を聴いたことがないという方も少なくないかも知れませんが、このライヴはとてもお薦めです。

タフな精神性-“アラ還”世代のデュエット

CDのジャケットに写るショーン・コルヴィンとスティーヴ・アールを見るとかなりの年齢差があるように見えますが、実は1歳しか違いません。彼女は60歳、彼は61歳です。

二人とも80年代にデビューしたシンガー・ソングライターで、どちらもゆるくいえばフォーク畑。でも、スティーヴ・アールはカントリーとパンク・ロックが衝突したようなテクサスの荒くれ者という初期のイメージからずいぶんと変化しました。ショーン・コルヴィンの方はもう少し内向的な雰囲気を持った歌手で、20年近く前に「サニー・ケイム・ホーム」という曲がグラミー賞で年間最優秀楽曲賞と年間最優秀レコード賞を受賞しましたが、それ以外は地道な活動を続けてきた人です。

二人に共通しているのは過去にアルコール依存症と闘った経験です。それを乗り越えた精神的なタフさがこのデュエットのアルバムから十分伝わります。プロデューサーはショーンがデビューした時からの盟友バディ・ミラーですが、カッコいいカントリー・ロックのアルバムは多くの場合にこの人が手がけています。

二人のオリジナル曲の他にいくつか60年代のカヴァー曲があります。1964年にイギリスのナシュヴィル・ティーンズがヒットさせた「Tobacco Road」、ローリング・ストーンズの「Ruby Tuesday」、そしてなぜか特に懐かしい感じがする「You Were On My Mind」が聴きどころです。アメリカではウィー・ファイヴ、イギリスではクリスピアン・セイント・ピーターズのヴァージョンで大ヒットしたこの曲は再びコルヴィンとアールの歌で流行っても全く不思議ではない、素晴らしい解釈です。

一本のギターが伝える“特別なもの”を聴く

ここ数年久保田麻琴さん経由でいろいろな面白い音楽と出会っていますが、つい最近また一人の素晴らしいギタリストを聴かせてもらいました。リカルド・モヤーノはアルゼンチン生まれの55歳です。70年代の軍事政権を逃れて彼の家族はアルゼンチンからスペインに移住し、その後パリにしばらく住んだ後、イスタンブルを拠点にして、それから23年も経っています。南米の音楽に詳しいギタリストの笹久保伸がリカルドを日本に招聘したことがきっかけで、そのライヴを聴いた久保田さんは彼の演奏に惚れ込み、その場でレコーディングの話が決まったと言います。

ガット・ギター一本のインストルメンタルな音楽で、曲によってはクラシック的な雰囲気もあればジャズっぽいラテンな感じの曲もあります。また長年彼が暮らしているトルコの影響がうかがえる中東のやや不思議な和音が登場するところがスリリングです。テクニックも優れていますが、それだけではない特別なものを感じる彼の演奏にどんどん引き込まれていきます。次の来日がいつになるやら、彼の演奏をぜひとも目の前で聴きたい!

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。5月26日に最新刊『ロックの英詞を読む‐世界を変える歌』(集英社インターナショナル)が発売。

photo: Tsutomu Sakihama