Barakan’s Picks バラカンズ ピックス ピーター・バラカンお薦めの音楽

40年前にロンドンで観た映像と音の興奮 ほか

完全収録CDとともに蘇ったライヴ

今回はまず、新譜と言うべきか、再発と言うべきか、その両方の要素を持つ傑作アルバムから紹介します。1973年にヴァン・モリスンが行ったイギリスとアメリカのツアーの模様を収めた2枚組ライヴ・アルバム『魂の道のり』(原題はIt's Too Late To Stop Now)は、彼の代表作の一つです。

「ムーンダンス」、「キャラヴァン」、「ドミノ」などの名曲を含む一連の作品を発表した後の脂が乗った時期で、ホーンとストリングズまで足した大編成のバンドで臨んだツアーでした。この時のバック・バンドも、有名なメンバーは誰もいませんが実に最高のライン・アップです。彼らに支えられたヴァンは絶好調で、自作の他にR&Bやブルーズなどのカヴァー曲もゴキゲンに歌っています。

そのアルバムの発売から40年以上経って、今度は未発表の素材も出ることになりましたが、これはなんとCD3枚とDVDのセット! 元のアルバムはいくつかの会場での音源を組み合わせた内容でしたが、この新しいアルバムは3カ所の録音をそれぞれフルで紹介する仕組みです。場所はLAのトルーバドールというライヴ・ハウス、サンタ・モニカのシヴィック・オーディトリアム、そしてロンドンのレインボー劇場です。これだけの大所帯なのでリハーサルは入念にしているはずですが、毎回登場する曲もあればその都度セット・リストの一部を変えている曲もあるのが印象的ですし、同じ曲を演奏しても雰囲気はかなり変わります。

ステージでの興奮ぶりはDVDの映像から直に伝わります。映像はレインボー劇場で収録されたもので、当時イギリスのBBCテレビで放映されました。ステレオ放送がまだない時代でしたが、片方のチャンネルはテレビで、片方はラジオで同時放送した実験的な試みで、当時ロンドンにいたぼくも緊張しながら放送を観たのをよく覚えています。約50分の映像がようやく公開される運びとなったのはやはり嬉しいものです。この新しいセットと同時に元々の『魂の道のり』も新たに復刻されているので、まだ聴いたことがない方には言うまでもなくお薦めします!

ベースのディープな音が気持ちいいジャズ・ファンク

ジャー・ウォブルというユーモラスな芸名から、このベーシストはレゲェが好きだろうという想像はつきますね。あからさまなレゲェのレコードはほとんどありませんが、長いキャリアの間に彼が発表してきた実にたくさんの多彩な作品に共通することは、ダブ・レゲェのサウンドを連想させる彼のベースの豊かな重低音です。

ジャー・ウォブルの出発点は、セックス・ピストルズ解散後にジョン・ライドンが結成したPiL(パブリック・イメージ・リミテッド)のメンバーとしてでした。その後彼はあまりにもいろいろなスタイルの音楽を試み、アルバムの数も多いので、その全体像をとらえている人はおそらくほとんどいないでしょう。個人的には、90年代に彼が複数のゲストを迎えてインヴェイダーズ・オヴ・ザ・ハートというグループ名で出した『Take Me To God』が愛聴盤でしたが、今度出た新作もインヴェイダーズ・オヴ・ザ・ハート名だと知って久しぶりに聴いてみると大満足でした。

以前のスタイルとはまた違って、今度は基本的にジャズ・ファンクと言えばいいでしょうか。コアのバンドはベース、ドラムズ、ギター、キーボードで、曲によってサックス、フルート、トランペットなどのゲストのミュージシャン(ナイジェリアの伝説のドラマー、トーニ・アレンの登場が特に嬉しい)が参加する形ですが、雰囲気的には70年代前半ぐらいの音楽を思い起こすサウンドです。「フュージョン」という呼び方から連想する商業主義的な匂いはないけれど、ノリのいい分かりやすい音楽ではあります。そして本人のベースのディープな音は非常に気持ちがいい!

富山経由――アフリカと南米のアーティストを東京で聴く

25年ほど前から毎年8月に富山県南砺市で「Sukiyaki Meets The World」というユニークなフェスティヴァルが開催されています。世界のいろいろな地域から、日本では全くといっていいほど知られていないミュージシャンを呼んで、主に地元の人たちで楽しむという珍しい音楽祭ですが、そのクオリティが高いため今や誰が出ているからというより、フェスティヴァルそのものに人が集まるようになってきました。

最初は富山だけでやっていましたが、それがちょっともったいないということで、終わった後に東京でも、もっと小規模のコンサート形式で「Sukiyaki Tokyo」(http://sukiyakitokyo.com/)が行われています。今年は8月30日(火)と31日(水)の二日間で、30日はアフリカ、31日は南米のアーティストがフィーチャーされます。会場は渋谷の「WWW」で、30日のみ開演前と各アーティストのライヴの合間に私がDJを務めます。30日のイヴェントでは、トーゴー、ソマリランド、そしてマダガスカルのそれぞれ面白いミュージシャンが演奏しますが、ここではマダガスカルのダミリーを紹介します。

マダガスカルというところはまず音楽が他とは違います。アフリカではありますが、インド洋に浮かぶ大きな島で、インドネシアあたりから大昔に渡ってきた人々の文化的な影響もあり、一般的な「アフリカ」というイメージではとらえきれないものがあります。特にギターという楽器に関しては、マダガスカル独特のコロコロと転がっていくようなメロディックな展開がゴキゲンです。主にアクースティック・ギターが使われますが、ダミリーはエレクトリック・ギターをそうとう安いアンプで弾いていて、小型の発電機と素朴な機材を使った屋外でのダンス・パーティをそのままかなり歪んだ音で収めたようなアルバムです。普通に言えばブートレグという程度の音なのですが、演奏に勢いがあって、ライヴで見たら間違いなく盛り上がります。ギターの他に歌とベース、パーカションという編成の5人組みで来日します。

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。5月26日に最新刊『ロックの英詞を読む‐世界を変える歌』(集英社インターナショナル)が発売。

photo: Tsutomu Sakihama