Barakan’s Picks バラカンズ ピックス ピーター・バラカンお薦めの音楽

僕の精神的ホームグラウンドと呼びたい
アメリカ南部音楽のこの3枚

こんにちは、ピーター・バラカンです。これから毎回1つのテーマに沿って、僕がおすすめするアルバム3枚、ご紹介していきたいと思います。第1回のテーマは、精神的に僕のホームグラウンドとも言えるアメリカ南部の音楽です。
まず最初の1枚は、僕が最も好きなスライドギタリストの一人、サニー・ランドレスの『Bound By the Blues』。あまり有名ではないかもしれないけれど、エリック・クラプトンが主催する「クロスロード・ギター・フェスティヴァル」では必ず冒頭に登場する、職人肌のスライドギターの名手です。
スライドギターにはいろんな個性的な弾き方をする人がいますが、その中でも誰もこんな弾き方をしない、というのがサニー・ランドレスですね。ギターももちろん素晴らしいんだけど、歌もすごくいいんですよ。やや高めの声で、とっても心のこもった歌い方をする。ソングライターとしてもすごく味のある曲をつくる人です。
彼はブルーズから出発して、その後、ルイジアナのザイディコの要素あり、ロックの要素あり、ケイジャンの感じもありという、広く言えばアメリカ南部のサウンドを展開してきたんですが、今回のアルバムでは、オリジナル曲の他にエルモア・ジェイムズの「Dust my broom」やロバート・ジョンスンの「Walkin’ Blues」など、久しぶりにブルーズの名曲をカヴァーしています。あまり派手さはありませんが、ブルーズ・ギターの好きな人だったら、僕は思いっきり推薦します。

ファンキーでご機嫌なニューオーリンズのピアノ

次に紹介するのは、ニューオーリンズで活躍するシンガー兼ピアニスト、ジョン・クリアリー。生まれはイギリスですが、17歳の頃から30何年以上、ニューオーリンズで暮らしています。アメリカの中でも最も独特の音楽文化であるニューオーリンズの空気が彼の音楽の細部にしみ渡っていて、ニューオーリンズの音楽の歴史についても生き字引のような、すごい知識を持っている人です。非常にファンキーなピアノを弾くし、この人もとても作曲が上手です。
一時期、ボニー・レイトのバンドリーダーを務めていて、ボニーにすっかり頼りにされていたこともありましたが、今は自分のソロ活動が中心です。彼のヴォーカルはあか抜けていて、曲によっては、かつてのボズ・スキャッグスにちょっと近い感じもあります。去年、僕が監修した「Live Magic」にも出演してもらいましたが、バンドでもソロでも、すばらしい演奏を展開してくれました。
今回のアルバム『Go Go Juice』には、2005年のハリケーン・カトリーナでニューオーリンズを出ていかざるを得なかった人たちが再び帰れるようにという希望を持った曲や、「Brother I’m Hungry」という、ホームレスの人たちにちょっと気を配ってあげようよという曲なども入っていますが、基本的に人生を楽しむという雰囲気の曲が多いですね。ファンキーでご機嫌な南部の音楽が好きな人には、一度聴いてもらいたいアルバムです。

まるで70年代のマスル・ショールズ

最後にご紹介するのは、僕も最近知ったばかりのシンガーソングライター、アンダスン・イースト。27歳の新人です。僕の好みをよく知っているレコード会社の人が送ってくれたのですが、聴いてみたら、これが大当たり。しょっぱなから「おおー、南部!」という感じで、とても27歳とは思えなかった。元々はアラバマ州のアセンズの出身で、ウィルスン・ピケットやアリーサ・フランクリンの名作を生んだサザン・ソウルの名門、フェイム・スタジオがあるマスル・ショールズという町の近くなんです。彼自身もこのスタジオで歌っている映像があるし、その空気が彼の音楽にも濃厚に出ています。
今回のアルバム『Delilah』も、ちょっとソウルっぽい雰囲気もあり、いかにも70年代によくいた南部のシンガーソングライターという感じです。最近こういうことをやる若者は珍しいし、すごく曲がわかりやすくて、聴けば耳に残る。うちの女房も一緒に聴いて「これ、いいね。誰?」と言ったぐらいだから、女の人にも受けると思います。それに、短いんですよ、このアルバム。10曲だけで、ちょうどLPレコードぐらいの長さです。飽きないうちに終わるから、逆にもう一回聞きたくなる。これがとても良いです。

ピーター・バラカン

ピーター・バラカン[ブロードキャスター]
1951年ロンドン生まれ。74年来日以来、著作権関係の仕事を経て、放送メディアを中心に、独自の選曲で世界各地の音楽を紹介。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)など。

photo: Tsutomu Sakihama 撮影協力: InterFM